01:桜

「桜すごっ!」

見慣れた通学路。薄桃色の花びらが、無色のはずの風を染めていた。
あまりにも大量なものだから、落ちてくる途中に掴むのは簡単そうだけれど、じつは案外難しい。
掴めたら恋が叶うとか、そういったジンクスが存在する程度には。

この桜はなんでも日本が植えたそうだ。
なるほど彼らしい、大輪の極彩色の花ではない。
色も大きさも控えめで、そして、ミステリアスな魅力がある。

そう言ったら彼は笑ってくれた。
まあ日本は大抵微笑しているんだけど、そっちのほうじゃないほうの笑顔で。

「せっかくだしお花見しよ!お料理持ち寄ったりして。ギルはヴルストとじゃがいもね!」

プロイセンの方を見れば、低血圧な憮然とした顔から一気にテンションが跳ね上がったらしい。赤い瞳に嬉々とした光を宿して、隣を歩く男をそこそこな勢いで小突いた。

「おー!じゃあスペイン、おまえもなんか作れよ!」
「あ、チューロ食べたい!」

お気に入りの菓子名を横から付け足しても、スペインはからりと笑って承諾する。
「ええよー、なんか考えとく。」
「じゃあお兄さんは前菜系と…自慢のワインでも持って行こうかな。」
「ならビールもいるな!」

どんな話をしようと、この三人にかかれば結局はお酒に流れていく方向になる。だからその間、アルコールに強い方ではないはおつまみのほうへと思考をずらした。
甘いカクテルを2、3杯飲むだけの彼女にしてみればビールやワインを水のように飲む彼らは酒豪どころかもはやザル。当然まともに付き合えるはずもなく。彼女自身、そんな彼らがたまに羽目を外して飲み過ぎた時の保険、のようなつもりでいるのだ。



そんなこんなでお酒やおつまみのことについて盛り上がりながら廊下を歩いていくと、山盛りのプリントを持ったドイツを見つけた。 遅刻の綱渡りを続ける兄のプロイセンやらとは違って、(でも実は遅刻自体は滅多にしない。さすがドイツのお兄さん!)彼の登校は結構早い。

「よおヴェストーいい話があんだけどよー」
「おはよールート!ルートもお花見いこーよ!いくよね!」
「花見?」
「お前ビール係りな!」


きょとんとする代わりの威圧感ある表情からはドイツの思考は読めない。それでも、私の空いてる日はー?の言葉に手帳を取り出して都合のつく日付を告げる様からは、そこまで嫌がってはいないようだ。

「しかし日本とも花見の約束をしているんだ。」
「いついつ?」
「4月の…っておい、」
「なんやイタちゃんもいるんか!」

ドイツの黒い手帳を覗き込んだ2人は細かくて整然としたその中から必要な情報を引き出して、他の2人にも聞こえるよう告げた。

にやりと笑みを交わす四人組が、四人より五人より、もちろん三人よりももっと規模の大きな花見を提案するのは、そのすぐ後のことだった。






MENU
WEB拍手→