10:教室

今日は、イギリスが学校を休んだ。

薄いながらも遅刻の可能性にかけていたのに、結局はそれすら外れてしまった。
風邪らしいとは担任の言葉だったが、それを聞いた時からの心はどん底だった。
今日はまるごと一日イギリスに会えない上に、今もなお自宅でイギリスが風邪で苦しんでいるのかと思うと、片思いの身としてはいてもたってもいられない。けれど学校をサボってまでお見舞いに行けば、真面目な彼には咎められてしまうかもしれない。というかイギリスの家知らないから行けない。そんな悶々とした気持ちの中、は早く授業よ終われと普段よりつよく念じながら授業をこなしていった。

ぼんやりとお弁当をつつくに三人は顔を見合せて、なんとか励まそうとし、…そのうち諦めた。何を言っても生返事で、イギリスの名前を出せば表情を陰らせ、ついには涙ぐんでぽっかり空いたイギリスの席を見つめだす始末なのだから、無理もない。

「恋という病は恐ろしいね。イギリスも罪な奴だ…」
「なにそれこわい」

なんたって授業中のイギリス観察もできない、休憩中の少ない会話も、まして放課後の事務連絡さえない。たった一日、たった一人のことなのに、それがとても辛い。いつもより楽しくない学校生活を一日分終えたは、ためいきをそこらじゅうにぽとぽと落としながらぼんやりと三人組のあとをついていく。

「ついたよ

フランスの言葉にふっと意識を戻してみると、見慣れない住宅街の中にいた。「は?」思わず間抜けな声を出すと、プロイセンがけせせ、と笑い声をあげた。門の隙間からは英国風のつくりをしたかわいらしい庭が見える。そして門の脇の表札には、Kirkland Houseと、どこか誇らしげに彫りこまれていた。







「Good morning、
ぽんと肩を叩かれて振り向けば、そこにははにかんだ表情のイギリスがいた。
「おはよ…、もう風邪は治ったんですか?」
「おかげさまで、な。ていうか敬語やめろっていってるだろ」
「善処してます…。」

朝の光が窓から差し込んで、きらきらと輝く。
二人並んで歩く廊下はいつもより少しだけ狭くて、すごく短い。
彼がいると、なにもかも速くなって短くなって、どうして時間はこんなに不公平なのかとはいつも思う。
「でもごめんなさい、昨日、うるさかったで…じゃない、うるさかったよね?」
「ああ、頭が割れそうだった。お前ら病人の前でよくあんな騒げるよな、感心するぜ。」
「じ、実にすみません…」

カークランド邸にお見舞いという名の襲撃を敢行した四人組はもう本当にやりたい放題で。
フランスは病人食を用意するかと思ったら勢いのないイギリスに発情するし、
プロイセンは役に立たないわ、スペインは治ってほしいという気持ちが微塵もないわ
結局はが別室に連れだした三人にぶち切れ、買出しと銘打って追い出した上で一人イギリスの看病をしていたのだった。
きっとイギリスにも聞こえていただろうその一連のやりとりが、今は心から恥ずかしい。
イギリスの看病というかつてない接近に理性がぶっ飛んでいたに違いない、とは思い込むことにした。

「…けど、こうして治ったわけだし、なんていうか、その」
ぼさぼさの彼の髪の間からぴょこんと、真っ赤に染まった耳が覗いている。
「助かった。…ありがとな。」
彷徨う碧が一瞬だけ、こちらを見たような気がした。
彼が居る今日の教室は、照明をそっくり変えたみたいにきらきらと輝いていた。


「…今日はバラ色の空気やね、ほんまにわかりやすいわぁ」
「お前空気読めたのか…ま、元気になったみたいでよかったよ」
「二人いっぺんに治してやったぜ、さすが俺様!」
「お前が何をしたって?」
「プーはエロ本漁っただけやんか」
「…ちくしょー!!」






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