|
11:誕生日
「今日は七月十四日です」
「ケーキ!」
肩までの金髪をくるりと巻いた男の言葉に、女は反射的に諸手と歓声を上げた。
机にだらりとしな垂れかかっていた銀髪の男と、机の上に出したマイ枕に埋まっていた茶髪の男も、それぞれ赤紫と緑の瞳を輝かせて髭まで金色のその男の方を顧みる。
「そういやケーキの日だったな!」
「ケーキや!フランス、さっさと出しぃ」
「いやいやいやいや、確かにケーキはあるけどね!」
「わーい放課後楽しみー」
「今日バイト入れてんくてよかったわぁー」
フランスを除く三人は一様に、のんびりと幸福そうな表情を浮かべた。
未来に待つ絶品ケーキに涎を啜りあげたギルベルトがするんと現実に帰ってきて、その視線を窓枠に腰かける少女に向ける。
「あ?お前生徒会は?」
その言葉に少女もぱっと現実に戻ってきて、半ば放心状態でぼやいた。
の視線は廊下で日本と話しこんでいる金色の後ろ頭と、乾いた笑顔を浮かべている髭の男とで揺れ動く。
いつもなら比べるべくもないのに、今日のフランシスの背後には仏さまの後光のように輝く、まだ見ぬ、しかし確実に甘美な誘惑。
「そうだ生徒会…、…でもケーキ…会長…ケーキ…、…ケーキ!」
「…あ、そ」
迷った末には期間限定の未知なる幸福を選び取った。
の分も食えるかも、と勝手にささやかな野望を抱いていたプロイセンはずるりと椅子にしなだれかかる。
いわゆる花より団子状態であると廊下にいる黒髪の青年なら称するのだろうが、あいにく彼は眉毛と会話中である。
頬杖をついて自分に何事か言い聞かせているフランスの頭をは開いた手でべしり、と叩いた。
「誕生日おめでと」
顔を上げた涙目のフランスの前には、はにかむ天使のような笑顔の少女。
己の不遇さを一発で解消するどころか、彼のテンションはどんぞこから一気に頂点に達した。
「ちゃんお兄さん信じてたよ!」
熱いベーゼを捧げるよとばかりに身を乗り出して少女の肩をつかみ、唇を突き出すフランスに、左右から綺麗に掌底が入った。
そしておまけに上から振り下ろされた英日辞典が顔面を机に沈める。
フランス、沈黙しました。日本の冷めた視線が呆気にとられた少女の目に入るが早いか、彼はいつもの微笑を浮かべて「お久しぶりです」と述べた。
「菊せんぱい。と、会長も。」
「ああ、大丈夫か。変態には十分気を付けろよ。」
英日辞書をぱすぱすと手で払い、イギリスは柔らかな声でを案じる。
どぎまぎしながらが礼を述べると、二人は何事もなかったかのようにまた廊下に戻って会話を再開させた。
「眉毛のくせにたまにはましなことするもんやな」
「おう、眉毛のくせにな」
「チャームポイントじゃんまゆげ。かわいい。」
「「ないわ」」
「お兄さん誕生日なのに…」
机にのめりこんだフランスのくぐもった呟きは、眉毛の是非について盛り上がる三人組には届かない。
「「「おたんじょーびおめでとーふらんすー」」」
「…ははありがとうなお前ら。棒読みの祝辞実に嬉しいよ」
「どういたしましてやーん」
そして放課後、フランス宅。
間延びした三人の揃いきらない声にもかかわらず、フランスはテーブルの上に巨大、かつ豪華なケーキを差し出した。
とたんに上がる歓声と自分を称える声に苦笑しつつも、彼はケーキを四つに切り分ける。
「スペインのおおきいよー」
「えー、同じ大きさやん…って今のセリフはあかんわ」
「、もっとエロく言え!」
「変態。マッターホルンに突き刺され」
「さぁそれなら、これについての感想はどうだ?」
フランスは皿に切り分けたケーキをプロイセンの前に置くと、にやにやと意地悪く唇を吊り上げた。
皿の上にはおよそ四分の一とは言えない薄い塊が、ちょこん、と乗っている。
「ギルの…っすごく、小さいです…」
「だぁあああ!!」
「もっと嘲るように!」
「調子乗るなよスパンキングぺド」
「最高やわ…」
「駄目だよ、こっちの業界ではご褒美だから」
三つのプレゼントボックスをそれぞれバッグに隠し、4人はなんだかんだで楽しく夜を過ごすのであった。
(あ、ギルの誕生日知らない。)
(わかんねーんだよマジ昔過ぎて。)
(しゃあないから命日祝ったるわ)
(祝62回忌ってか!)
(まじ笑えねぇ…)
1947年2月25日=プロイセンが名実ともに消滅した日
|
|