発射直前の、高エネルギーの溜まった主砲に突如襲った攻撃。
着水を余儀なくされるほどの被害を受けたミネルバをレイとルナマリアに託し、ハイネは黒を基調としたMA型の機体と交戦していた。
獣型のそれを調教するかのようにヒートロッドで打ちのめした後、屈みこんで盾で攻撃を受け流し、ソードでなぎ払う。

パイロットの能力はかなり高い。けれども、所詮ハイネの敵ではなかった。
他の量産期のように瞬殺こそできないものの、少し時間をかければ確実に倒すことは出来る。邪魔や、とんでもないミスをしない限りだが。
神経が張り詰める。なかなか仕留められない相手に感じるのは、焦りではなく高揚だった。戦いの中でだけ得られ、高まってゆくもの。



ところが。
交戦中の二機を分かつように、一条のビームが放たれた。
「!?」
ガイアから十分距離をとってからそちらに目をやると、
いつのまにか、白い機体に青い翼を持ったフリーダムがそこにあった。
ぐんぐんと距離を詰めてくる全大戦の遺物へと、先に飛び掛っていったのはガイアの方だった。

けれども、なんともあっけなく攻撃はかわされ、更にフリーダムはガイアの前足を両方とも切り落とした。地面に叩きつけたそれにはもう見向きもせず、今度はハイネの駆るグフに狙いを定めたようだ。

「手当たり次第かよ、この野郎生意気な!」

咄嗟に右腕のドラウプニルで攻撃を仕掛けるも、恐ろしいほど被弾せずにフリーダムは切りこむ。コクピットに響く警告音と、少なすぎる衝撃。

「なにぃっ!?」

見れば、ドラウプニルは右腕ごとすっぱりと切り落とされてしまっていた。


本気で戦おうともせず、終わったわけでもないのにフリーダムはグフに背を向けた。
一体何をしに来たのか。余計な手出しをして、戦局を混乱させて!

今なら背後を取るのは簡単だ。少しバーニアをふかせば、それでよかった。
あれさえ落とせば、格段に戦力は落ちるのは明らか。今やらずに、何時やるのか。
左手も自然と、スラスターにかかっていた。











二階の自室で本でも読もうと、はホールの階段を上っていた。
一段一段確かめ、しっかり段を踏んでいく。
足を踏み外したら本当に洒落にならない。

「…あの子も、手…引いてくれたっけ…」
軍人というには幼すぎる、成人したてだった一人の少年をは思った。
ふわふわの若草色の髪の毛を揺らし、こげ茶色の瞳を優しく細めて。
彼の弾くピアノは彼のようにとても優しくて、今となってはとても悲しい。



パーティで偶然はちあわせ、話しながら階段を上る途中、は履きなれない履物のためか、バランスを崩してしまう。そのまま揺らいでもニ、三段下にいるミゲルが受け止めてくれるはずだと落ち着いていたが、より上の段にいるニコルは腕を伸ばし、手首をしっかりと握って彼女の体を安定させた。
思ったよりずっと強い彼の力と行動力に、ミゲルとの二人は逆に驚いてしまったのだが、二コルは微笑んでこう言った。

『危ないですよ、先輩。』
そして、彼は自分へのエスコートを申し出てきた。
可愛らしい後輩の思いがけない行動にミゲルは嫉妬も忘れ、柄でもなく呆然としていたのを覚えている。



「結局、ミゲルなのね・・・・・・困ったものだわ」

あと一段、と足を踏み出そうとした丁度その瞬間、
彼女の視界は、ぐにゃりと揺らいだ。
























『馬鹿が!!』



不意に聞こえてきた声に、思わずハイネはその動きを止めた。
これが普通のオペレーションの声であれば無視していただろう。何せ自分はFAITHであるし、交戦中なのだから。
だが、その声は無視するには少々『強』すぎた。脳に直接響く、とはこのことなのだろう。痛みすら伴うその声にハイネは眉を顰め、左手でヘルメットの上から頭を抑えた。
本調子でないときに挑んだところで、敵わない相手だと分かるからだ。

ハイネはフリーダムからはけして視線を離さず、睨みつける。
画面の端から黒い塊が飛び込んでくる。
良く見ればビームサーベルを銜えたガイアが、フリーダムに飛び掛っていくところだった。…奇しくも、頭痛さえなければハイネが廻りこんでいたであろう空間を切り裂いて。

「…俺は…」
ハイネは海に蹴り落とされるガイアを唖然と見つめながら、一度だけぶるりと震えた。

「もし、なんて…な…」
















衝撃に備えて、は固く目を瞑った。手すりには遥か届かない両腕は、人体にとって大切な頭部ではなく腹部に絡めた。身重の身では、受身すらままならない。
最上段で足を踏みはずせば、どんな事態になるのか―…最悪の事態も容易に想像が付く。せめてこの子だけでも、と、必死の思いが頭を占めていた。

落下していく感覚。
抗えないそれが全身を包み、…いつまでも、終わらない。



「…え…?」

瞼を薄く開けたとたん、とさり、と自分の体は抱きとめられた。
黒とも白ともつかない空間に、映える濃いオレンジ色の髪。
無造作にはねたそれは、彼女の夫のものではなかった。

〜、久しぶり。』
「…ラスティ?」
『良かった、覚えててくれたんだ!』

写真の中と変わらぬ姿で、ミゲルの少し前に命を落としたはずの彼は笑った。
彼には確かに感触があって、じんわりとした熱すら感じる。
の口が疑問の言葉を紡ぐ前に、ラスティはふっと視線を他のところへ移した。
つられるようにして視線を動かしてみれば、そこには、


『危ないですよ、…先輩。』

一面の花畑の上に立つ、優しい、優しい笑顔。
守りきれなかった笑顔。
アスランを庇ってストライクに討たれた、ニコル・アマルフィの姿。

「どうして…?ニコル…ラスティ…」
『さぁ?どうしてだろうね。』
『残念ですが、説明している時間は無さそうなんですよ。』

とぼけるラスティと、困ったように言うニコル。その姿があまりにも懐かしくて、は涙を溢れさせた。

「ここは…」
『所謂死後の世界、ってヤツかな。』
先輩はちょっと違うんですけどね』


彼らに再会できたことも嬉しい。それでも、抑え切れない疑問をは投げかけた。

「ミゲル…は?ここにミゲルもいるの…?」

他の人の話題を出されたことで、不快に感じるかもしれないと言ってから後悔したが、の良そうに反して二人はくすりと微笑を返した。

『もう、こっちにはいないんですよ。』
『ちょっとタイミング悪かったね。もミゲルも』
「それは、一体…」

問いかけようとが口を開くと、天から一条の光が差し込んできた。今ならこの空間が闇だと分かる。ニコルとラスティが、自分にはない光を纏っていることも。

『ホントに、もうお別れみたいですね』

ニコルは光の差すほうを見上げて言った。とても苦しそうに。ラスティも上を見ていた。身体を失った彼らはもう、光ある場所へ戻ることは出来ない。

『…な、、精一杯生きてくれよ。』
ラスティは上を見上げるのをやめ、の顔を見つめた。

『俺たちの分までさ、せっかく、生き残ったんだから』
『幸せになっていただかないと、僕たちも安心して眠れませんからね。』

ニコルはを支えるラスティの手に倣い、体の下へ手を差し入れた。。そのまま二人は腕をあげてゆく。彼女を、光へと捧げるかのように。

『生命を紡ぐのは、生き残った人たちにしか、出来ないことなんですよ』



頬を伝っていく涙の感触と、ニコルの暖かな言葉を最後に、の意識はぶつりと途絶えたのだった。







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