「…は」

思わず感嘆のためいきが出てしまっていたのはしかたないことだった。目の前に広がる世界は今まで彼女が見たこともないものであったから。
目も口もぽかんと開けたは、騒がしい広場の端っこで立ち尽くしていた。

広がる酒の、というかビールのむんとした香り。申し訳程度のヴルストのおつまみにはほとんど手は付けられていない。空のジョッキの代わりにビールがなみなみと満ちたジョッキが大量に行き交っていた。五リットルは飲まなきゃ俺は酔えねえぞ…どこかで青年が豪語する。充満するアルコール臭だけで酔いそうになるには想像のつかない世界だった。 こんな未知の世界にを連れてきた本人はというと、早速輪に加わって浴びるようにビールをひっかけていた。白い肌を皆一様にピンク色に染めて、陽気に酌み交わすさまは、普段の圧迫感すらある厳格な印象とは真逆である。

それは、いいのだ。
けれど、 は絶望感に打ちひしがれていた。
この程度の酒宴ならば、巨大な酒場のようなもの。それならば彼女も何度か経験しているし、さすがに慣れた。
しかし、

ばいーん
どいーん
どどいーん

なんだこの圧倒的な物量差。


思わず下を見れば、ますます分かるこの差。
けして小さいつもりはなかったけれど、今ではそんな少し前の自分を指差して笑ってやりたい。
目の前のドイツの金髪美女たちは、ウクライナさんには及ぶべくもないものの(あれは本当にハンパなかった)揃いも揃ってとんでもないものを持ち合わせていらっしゃる。 しかも民族衣装のようなかわいらしい服や、普段着に近いものでも、ほぼ例外なくそれを…つまり、胸元を強調するようなデザインで。彼女の祖国が見れば卒倒しそうな光景だった。
私はそんなほろ酔いのおっぱい、じゃなかった彼女らに、いつのまにか取り囲まれて子供のように愛でられ、勧められるビールを飲み干す。苦みに顔をしかめると甘いおつまみを差し出され、それを食べている間にジョッキはいつのまにか満タンに。

酔った男がひとり、勢いづいて机の上に立ち上がる。囃したてる周囲に釣られて、はそちらに視線を向ける。彼はTシャツを脱ぎ捨て、ベルトを抜き取り、おもむろに―…






「大丈夫か」
「…るー、と?」
目が覚めると彼女はバイルシュミット兄弟の家に戻っていた。心配そうに覗き込むのは弟の方。少女は譫言のように何事かを繰り返し呟く。

「る…ト…」
「?」
「す……ヴルストは嫌ぁぁあっ」

その日から一週間、ヴルストを見るとひどい顔をする彼女に配慮し、兄弟は大好物を我慢し続けたのだった。



オクトーバーフェスト!!




後日、日本に祭りの時の写真を見せたら穏やかに微笑んで「このような国でこそ貧乳はステータスたりうるのです」とかほざきやがった。もう勝手にすればいいと思いました。




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