その日、ラバナスタは希望と喜びとで満ち溢れていた。




聖堂の鐘が鳴り響く中、彼らはやってきた。
公事のときにしか使わない大通りをいっぱいに使って、
様々な種族の入り混じった楽隊と、綺麗におめかしされたチョコボが先導して
飛空艇から降り注ぐ美しい花びらのもと、
たくさんの人々に祝福されながら、二人は微笑んでいた。









しばらくその場にたむろしていた人々の波も、ようやく落ち着きを見せるころ。
やっと少女は、乗り上げていた橋の手すりから降りようと思ったようだった。
ずり上がっていた服を引きおろし、くるりと振り返って嬉しそうに少年を見上げて口を開く。

「綺麗だったね、王女様」

お姫様と王子様の結婚式―…そんな童話のようなできごとを目の当たりにして、少女は至極満足しているようだ。元から少女の感情表現は分かりやすい。
少年は彼女と幼馴染だったが、そのことを抜きにしても、彼女の今の心の内を占めていることを読み取ることは、本当に造作のないことだった。
今は見に来たパレードに満足し、ほんの少しだけ嫉妬しているようだった。

「私、王女様と同い年なのにな。どうしてあんなに大人っぽいんだろ。」
「王女様だから、じゃない?も王宮で育てばああなったかも。」
「窮屈そうだね。」
「オレたちから比べればね。」

少女が階段を2、3段まとめて飛び降りると、背負った弓とその筒とがぶつかってカチャリと音を立てた。
こう見えても、彼女はなかなか腕の立つハンターなのだ。
その狙撃の正確さはクランのハンターを唸らせるほどであった。
…ただし、接近戦になるとどうしようもなく、その辺りは剣を用いて戦う術に長けた少年に頼るしかない。彼女は弓の腕は一流だったが、その他の武器の扱いに関しては短剣を少々、護身程度に操れる腕しかないのだった。

二人は軽口を叩きながら、街の南側へと向かった。
南側には外門が三つ集まっており、東―…つまりナルビナ側以外はまだ自由に通ることができる。

けれど戦争が激化すればその自由は不安定となり、都の外へ出られなければ収入は激減してしまう。 今の内に貯められるだけ貯めておきたいのだと、パレードに行こうというのに武装をしはじめた少女は言っていた。

「ねぇ、レックス。弟くん寂しがってたよ。…あなたの前じゃ強がってるけどさ。」
外門前広場までの道すがら、少女は急に神妙な顔つきになり、少し高い位置にある少年の顔を見上げた。

「うん、わかってる。」
「私だって、寂しいよ。」
「…ごめん。でも、もう決めたんだ。」

視線を落とす少女に、レックスと呼ばれた少年は微笑み、ゆっくりと数度少女の髪を撫でた。再度顔を上げた少女の顔には、笑みが貼り付けられていた。

「なーんて。レックスが頑固なのは今に始まったことじゃないもの。もう止めないよ。
 …頑張ってね?・・・でも、ちゃんと無事に帰ってきてよ!」
言葉の後半にやっとのことで普段の笑顔に戻った少女の姿がどこか痛々しいのは気付いていたけれども、少年は彼女の精一杯のエールを無下にすることなどできなかった。



「…ありがとう、。」


少年が少女の瞳を柔らかに見つめると、少女の頬はぱっとリンゴのように赤く染まった。












盛大な結婚式から、ほんの数日後のことだった。
対アルケイディアの要衝、ナブディス陥落の知らせはラバナスタ中を駆け巡っていた。
政略結婚により辛くも『消滅』を逃れたラスラ王子と、名将バッシュが率いる主力軍が聖堂前に集い、高らかに鬨の声を挙げる中、レックスは守備兵として王都に残されることとなっていた。
国を守るは本意であった。だがナルビナ城塞という最後の砦とも言うべき地で戦えないことは、残された彼に悔しさを呼んだ。

自分も兵士となって、祖国のため―…祖国に暮らす大切なものの為に戦いたい。
その時のレックスの強い願いが、歪んだ形で天に届いてしまったのだろうか。

ダルマスカはナルビナで大敗を喫し、王女の結婚によってもたらされた希望もラスラ王子の戦死によって儚く失われてしまった。
度重なる抵抗も露と消え、騎士団も殆ど壊滅状態の中、ダルマスカ王ラミナスはアルケイディアの提示した和平案を受け入れるために、帝国支配下となったナルビナへ向かった。

そして、ナルビナ城砦から王子の亡骸を連れ帰った将軍バッシュを初め、生き残った少数のダルマスカ騎士の間に、不穏な噂が届いたのはその頃であった。


…"和平協定調印式において国王暗殺の策動あり"


生き残った騎士達を集め、即席の一個小隊を完成させたバッシュの元に、一人の少年が拱手し跪いた。一見するとまるで少女のような少年だった。
「将軍、…オレも行かせて下さい。」


決意の篭った瞳の輝きの強さに、バッシュはゆっくりと頷いたのだった。











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