●お転婆姫様大冒険
「こんにちわ、陸遜。」
「姫、お待ちしていました」
一人の軍師のもとに、今日も窓からお姫様。
放っておけば食事も摂らない軍師のため、とはよくいったもの。
お姫様がこうして毎日のように来るおかげで、
軍師は彼女が来るまでは、休憩にも食事にも入れやしません。
本日は少し遅めだったお姫様の姿を見るや否や
軍師付きの女官と文官は部屋の外へ。今はつまり、彼らの休憩時間でもあるのです。
軍師は彼女が来るまでは仕事に没頭していますので、 お姫様が遅くなるのを気にするのは主に彼らだと言って良いでしょう。
「今日は肉饅頭を作ってきたの。」
にこりとほほ笑み、蒸籠を開きますと、
中には少々いびつではありますが、美味しそうな肉まん。
「いつもありがとうございます。」
早速ぱくつく軍師を、お姫様ははらはらしながら見つめます。
「とても美味しいですよ、。」
両手に肉まんを掴んで、軍師は少年のようにがっつきました。
できたての肉まんの中からは肉のつゆが溢れ、軍師の手にこぼれかかります。
お姫様は至極嬉しそうにその様子を眺めて、にこにこしていました。
蒸籠いっぱいのそれはすぐに、少年のおなかへと消え去りました。
「ごちそうさまです、」
「陸遜、手を出してもらえる?」
「手ですか?…」
「そっちじゃないわ。そう、…」
お姫様は軍師の右手を拒絶して、左の手を引き寄せました。
お姫様の指が軍師の手に絡み、その手を高く引き上げます。
ぺろり
「っ、!」
お姫様は軍師の腕をちろりと舐めたかと思うと、
そのままずっと手のひらのほうへと舐め上げました。
ぞく、と軍師の背筋をなにかが走って、かぁっと顔に朱が差します。
「つゆが垂れていたの」
お姫様はいたずらっぽく笑って、そのまま軍師の手に接吻を施しました。
真っ赤になって何も言えないでいる軍師が復活するより早く、
遠くのほうからお姫様を呼ぶ声がしました。
「なによ、お兄様ったらいけずなんだから」
お姫様は軍師の仕えている、孫家のお姫様なのでした。
彼女には軍師と同い年の妹姫がいて、上には2人の兄がいます。
彼女がいけずと称し、彼女のことを呼んだのは、その兄たちのうち上の方です。
この時代の長男というものの命に、たとえ文句は言っても、逆らうことなどできはしません。
「またね、陸遜。」
お姫様は少しさみしそうな顔をして、軍師に別れを告げました。
「ええ、また。」
軍師も残念そうに、お姫様に別れを告げました。
窓からやってきたお姫様は、扉から帰ってゆきました。
「なんだ、お前また陸遜のとこにいたのか!悪い悪い!」
上の兄がお姫様にそういいました。お姫様は悲しそうに笑いました。
「ほっとしているでしょうね」
兄はきょとんとして、お姫様の言ったことの意味は分からないようでしたが、
お姫様が悲しそうな顔をしているのを見て、お姫様の頭をとんとんとなでてやったのでした。
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