●お姫様の憂鬱
「私、なんだか結婚するらしいわ」
今日も今日とて窓からやってきたお姫様。
穏やかな午後 淹れたてのお茶を冷ますその唇で
お姫様はさらりとそう言いました。
「け、結婚…?」
危うくお茶を盛大にまき散らすところだった軍師は、慌てて器を机に置きます。
「そうなの」お姫様は少し唇を尖らせて、眉をひそめました。
「蜀の劉備と。そんな話が出ているの。
お兄様と周瑜のお話を盗み聞きしただけだけど…でも、それって決まったようなものでしょ?」
国のトップとその参謀との秘めた会話が、国策に一切関係のない筈がありません。
軍師は己の未熟なのを少しだけ悔やみました。
「劉備と…ですが劉備はよりだいぶ年上なのでは?」
「だから年上の私がいくのよ。尚香だと更に年齢差が開いてしまうから。」
お姫様は遠くの方を見るように、他人のことを語るかのような調子で言いました。
「しかたないわ。それが私の仕事みたいなものだもの。」
あきらめを宿らせたお姫様の瞳に、軍師は何も言葉をかけられませんでした。
ショックでたまらなかったのです。
いずれ訪れる、分かっていた筈の事実をもう一度突きつけられて、目の前が暗闇に覆われます。
お姫様はそんな軍師にふっと微笑みかけて、いい頃合いにさめたお茶をくいと飲み干しました。
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