●貴方を誘拐します


「貴方を誘拐します。」

いつもどおり窓からやってきたお姫様はいつもより軽装で、
まぶしい太ももを白日の下に晒しておりました。
軍師はぽとりと筆をとり落として、書きかけの竹簡はべとりと墨まみれ。
お姫様は混乱する軍師の手を引いてぐいと立たせます。

「な、誘拐って…どういうことですか、!?」
慌てふためく軍師ですが、その柔らかな手をけして振りほどけはしません。

「どういうことも何も。手に入らないのなら奪っちゃえばいい…んです。」
「…誰から教わったんです?」
「尚香に」
「だと思いました」

軍師は諦め半分で、お姫様に手をひかれてゆきました。


姫さん。そんな恰好してどこ行くんです?」
しかも陸遜まで連れて。
廊下で出会った凌公績が、にやにやとした笑顔で聞きます。
お姫様は少し止まって、にっこりほほ笑みました。

「陸遜を誘拐しているのです。」
「…へ?」
「ええと、だから急いでいるんです、ごきげんよう凌統」

凌統公績は一瞬ぽかんとして、
それから軍師になんともいえない生暖かい視線を贈りました。


城の厩にはお姫様の馬が一頭と、大きな馬が一頭、
そして周幼平がおりました。
「周泰、お待たせしました。」
「……いえ…」
「早速、お願いしますね。」

お姫様は軍師の手を周泰に託し、自分はひらりと愛馬に飛び乗りました。
短い裾がまくれあがって、いろいろと大変なことになっています。
軍師は耳まで真っ赤に染め、ぎゅっと目を瞑りました。

「………」

周泰は何も言わずに軍師を子供のように抱えあげ、大きな馬に乗せました。

「ええっ、まさか、周泰どの、お待ちくだっうわぁ!!」
軍師を乗せたその馬に更に跨る周幼平の姿に、お姫様は快活に声を上げます。

「さ、参りましょう!周泰!」
「……はい…」

ぴしりと馬に鞭を打つ音が二つと、軍師の悲痛な叫びとを伴い、
お転婆姫様と軍師、そして忠実な従者は厩を飛び出したのでした。








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