●だから。


悲壮感漂う蜀人との結婚話は、相手が大徳、劉玄徳だと判明したところで、一気にその様相を変えます。

『玄徳さまですって!?なら私が行くわ!文句は言わないわよね?』

ひそかに思い慕っていたひとだと知って目の色を変えた尚香が、かっさらっていってしまったのです。
その恋心はたまに相談されていただけあって、妹の恋の成就は素直に喜ぶべきことなのですが、
問題は、お姫様の気持ちの問題でした。
結婚が本決まりになって、妹姫が嫁いでいっても、お姫様は軍師に会いに行けないでいました。
会いに行きたいし、蜀に行かなくて済んだことはうれしかった。
けれど、お姫様の心のしこりは残ったままだったのです。
尚香にはそんなことはない、と励まされたけれども、
どうしても、お姫様は自分の考えを捨てきれませんでした。

だから足が遠のいて、時間が空けばあくほど、軍師のところへは余計に、行きづらくなりました。

お姉ちゃーん」
小喬がやってきたのは、そんなときでした。
周瑜さまのお部屋に飾るお花を摘みに行きたいから、一緒に行こうという誘いでした。

姉さま、いきなりごめんなさい。小喬がどうしてもって言うものだから…」
「気にしないで、大喬。たまには外で気分転換しないとね!」

うれしそうにほほ笑む大喬の頭に出来上がった花輪をのせて、二人は笑いあいました。
小喬が少し離れたところで、花を厳選しては摘み取っています。

「あまり離れると危ないわよ、小喬!」
「えへへ、だって下手なお花だと、周瑜さまには似合わないでしょ!」

どんどんと離れていく小喬に、しかたがない、と二人が腰を上げたところで、
絹を裂くような小喬の悲鳴が上がりました。
見れば、彼女は粗暴そうな男に拘束されて、小刀を突き付けられています。

「小喬!!」大喬も悲鳴を上げます。
「なにすんのよっ!」小喬は暴れますが、男の手から逃れられません。

大喬は喬美に手をかけて、それでも、それを開くことはできませんでした。
戦場に立つこともある彼女には男の一人や三人伸すことなど簡単なのですが、
そうする前に小喬に何をされるかはわかりません。
そして、その判断は賢明でした。
小喬の近くの草むらから、がさがさと無遠慮な音をたてて、
どこにこんなに隠れていたのだと思えるほどの人数が出てきたのですから。

「要求は何ですか。」

お姫様は立ち上がって、じっと男を見つめました。

「私たちの命ですか?それともお金。」
「…聞き分けのいいお嬢さんだな。」

男は下卑た表情で、「金だ、」といいました。

「では私を人質になさい。私のほうが多く、身代金を取れることでしょう。」

凛としたお姫様の言葉に、二喬は息を呑みます。

「ほお?」
「だからその子を離して。彼女たちが仲立ちになりますから。。」
「てめえの後ろ盾はなんだ。そんなことをいえる証拠は。」

「私の名前は孫。孫呉の名にかけて誓います。」
お姫様はぴしりと男を見つめたまま、言いました。








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