時間旅行に失敗してから、何日になるだろうか。 HR−X2型の試用を命じられ(研究の片手間に作ったらしい)私は外に出ていた。 珍しく吹雪いてはいなかったものの、やはりかなり寒い。 暖かい室内で会議中のカーレルの防寒具を羽織ったは、ポケットに手をつっこんでロボットの散歩としゃれこんでいる。 といっても、今回の会議内容は、研究者チーム…そして敵方に捕らわれたアトワイトと、クレメンテの救出について。 此処に来てからの保護者同然だったアトワイトに関することだけに、もその内容は気になったのだが、 一介の兵士という身分であるがそんな重要な会議に参加できるわけもない。 やきもきしながらの散歩はあまり、気を晴らさせる要因とはなり得ない。 「よく片手間でこんなもの作れるなぁ…おっとっと、そっちは崖だよ。」 ロボットに左折の指示をすると、素直に従う。 寒いのを忘れて、それでも結構楽しんでいると、ロボは突然前進をやめた。 疑問符を浮かべてHR-X2型に駆け寄る――…そして、視界の端に鮮やかな色を認めた。 金に赤に青。目の覚めるような…黒。 白い雪の中の鮮やかな集団はかつて一度も見たことはなく、 若い―自らと同い年くらいの少年、少女達ばかりに見えた。 崖の下に滑り降りながら数を数えてみると、立っている人数はちょうど五人。そして今黒衣の一人が雪の上にしゃがみ込んだ。 気配を殺してそっと近づいていくと、先程までは雪に吸い取られて微かにしか聞こえなかった声が ぶつりぶつりと聞こえてくるようになった。 「……いわ…ごめんなさい、わたし…、…が……。」 「ここは……なん…?なんか…こう……なんだ?」 「分からないね。…とにかく、ここで……には……だろ?…ここ……?」 「地上軍拠点…だな。おい、お前じゃ無理だ。貸せ。」 黒衣の小柄な人物が、かがみこんでいた場所からどいて、 長身の男性が青い布にくるまれたおおきなそれを背に担ぎ上げた。 どうやら六人目の人物が包まれているらしい。 「とにかく、風が凌げる場所が必要だ…ね………!!、あんた、は?」 赤毛の女性がこちらを振り返り、驚愕する。 その声につられて他の―意識のある四人もこちらを向いた。 仕方無しには、ふうとため息をついて一応剣の柄に手をかける。 「…それはこっちの台詞だけどね。レディ。」 五対一。見かけどおりの腕前ならばそれくらい取るに足りない。 けれど油断はしていないつもりだ。 もし、天上軍側の人間ならば始末しないと。そのぐらいしないと恩返しできそうもなさそうだし。 「義勇兵志願か?それなら大歓迎だけれど…」 いいながら、は目をすぅと細めた。 「…ああ、それ、そうなんです!俺たち、軍の役に立ちたくて…なっ?カイル?」 「え、俺!?…えーと、そうなんです。是非、部下に!」 「そうなんだ。」 にっこりと笑ってみせると、何人かの雰囲気が少しだけ和らいだのが分かる。 …正確には、黒衣の人物一人を除いた、雰囲気が。 どこか懐かしい空気を身にまとうその人に、ふと顔がほころびそうになるが、 彼はあんな―…そう、あんなに奇妙なものを被るほどバカではないはずだ。 顔が皮肉気に微笑んだ。 「…戦時中なのに随分身なりがいいんだね。 それにそんないい武器を持ってるのに今まで武器すら寄付しなかったなんて、 君たちはよっぽど傲慢な隠れ里に住んでいたんだ。いいご身分じゃないか。」 「そ、それはッ…!」 「嘘はつかないほうがいいよ。…なぁ…変だろう? この雪の中、お前達は防寒具すら持っていないじゃないか。 正直に言えよ。ぼくたちは考え無しの天上人です、ってな。 そうしたら、楽に殺してやるから。」 金属の擦れあう音とともに、手を交差させて両腰から長剣を抜き取る。 鉱物『ベルセリウム』の中でも更に貴重な、黒い輝きを持つその刀身は、 二つとない、とすら言われたことに恥じぬ切れ味と扱い易さを持っていた。 「ある意味ソーディアン」とそう、ハロルドに言わせしめたほどに。 奇妙な黒刃を見て五人に明らかな動揺が走る。 「あ、あなたは…!そうか、だから…!」 桃色の服を着た少女が、声を上げて六人目の人物の方を見やった。 青い布の上のほうからは、黒い髪が覗いている。 目線は外さず、はHRX-2型に人を呼ぶよう命令した。 するすると動いていく機体を横目で見て、双剣を構えなおす。 「僕達は…。」 不意に聞こえた声色に、思わずぎくりと身を振るわせる。 一歩前に出て、黒衣の人物が放った言葉は…あまりにも。 「僕達は、ハロルド博士を探しているんだ。」 「へ…へえ。それで、ベルクラントをより強力にするつもり。」 「違う!」 「証拠が無い!お前たちはこの地上で、育ったやつじゃない!だから…」 「アンタと同じ、未来から来た人たちなんじゃないの?」 ハッとして振り返ると、そこにはHR−X2型と、ハロルドの姿があった。 ハロルドは含み笑いをして、いつぞやかに見たような表情をしている。 「どうしてそれを!」つんつん頭の少年が狼狽した。 そんな少年の様子に、ハロルドはしてやったりとばかりに唇を吊り上げる。 「あっらー、ホントに未来から来たの。」 「このバカ…」 「いっちばん有り得ないの言ってみたんだけど、ふぅん…」 と集団とを見比べ、ハロルドはしきりに頷く。 「で、わざわざ戦争真っ只中のこの時代に来たってことは…何かあるのよね?この時代に。」 「実は…」 「あ、いいわいいわ、答え聞いちゃうとつまんないし。」 「…はぁ。」 相変わらず良く分からない人だ、そんな気持ちを込めてハロルドを見やると、 彼女はなんともまあぞっとするほど嬉しそうに笑んで、また紅をのせた唇を歌うように開かせた。 「とりあえず、中に入りなさいな。病人が居るんでしょ?」 「…行くっきゃねぇな。」 集団は一様に苦々しげになった顔を見合わせ、数瞬の後に銀髪の人物が肩の人物に視線をやり、言った。 「…それで結局、何だかんだ言ってあいつらは得体の知れないままハロルド直属の部下になったんだ。 おかしいよな、あんな怪しいヤツら、わざわざ引き入れるだなんて!」 シャルティエとイクティノスの部屋で、はぶつぶつと愚痴っていた。 それに同意するシャルティエに気をよくして、せっかく矯正したの口調はすっかり元に戻ってしまっている。 「だって、十分怪しいと思うけど。」 返事をするシャルティエも、思わず―というより、 六人組が来てからはそう呼ぶよう言われている―男名を使う。 それでますます拍車がかかり、歯止めするものも捕らえられてしまっているために、はどんどんへと戻っていった。 もしあの怪しい集団が『』と同じ時代を生きたものであれば都合が悪い。そう考えたハロルドの案だった。 「いいんだよ、オレは一人だけなんだから!」 「そういう問題なの?」 「そうそう!!それにしてもなんでああ、ムカムカするかな!本当、あいつらに近づくのも御免だ!」 苛々することが多くなったは、あの最悪の初対面から未だ、あの六人組と会話をしていなかった。 自分の気持ちを悟ってか向こうの態度も他所他所しいもので、向こうから声を掛けるなどとてもありえない。 ハロルドもの気持ちを汲んで、できるだけ六人とが鉢合わせないように気を使ってくれている。 けれど要因を作ったのも彼女なので、もうなんだか訳が分からないのだ。 「確かに、僕もあの人たちとは合わない気がする。…なんだか気分が悪くなる感じがして。」 「何か言われたわけでもないし、変な行動してるわけでもないんだけどな。…なんでだろ。」 「…『生理的に合わない』?」 「それそれ。…ってどんな酷い告白の断り方だよソレ!」 嬉々としてがツッコミをいれた直後、シュンと音がして扉が開いた。 そこには部屋のもう一人の持ち主であり、の腰掛けているベッドの持ち主である、マイナード少将がいた。 「あっ、すいません!」 は反射的に立ち上がり、後ろ手で座っていたところをかるく掃った。 イクティノスは困ったように別に構わないという旨を話したが、 なんとなくこのまま話を続けるのは気が引けて、お休みを告げてから二人の部屋を逃げるように出た。 明日は早いし、もう寝なくては支障が出る。 堪った鬱憤は吐き出しきれていなかったが、は仕方なく自分のベッドのある部屋へと戻ることにした。 扉の前で一度立ち止まって軽く予定を組んでいると、 だいたい七時の方向あたりで、この時代独特の扉を開ける音がした。 何気なく視線を向け、そして、は固まった。 「おまえ…」 「おまえは…」 六人の中で一番怪しい、竜骨の仮面を被った男がカーレルの部屋の扉前に立ち尽くし、驚いたような声色で呟いた。 NEXT BACK |