「ロックオン・ストラトス。」
黒のタキシードに身を包んだ美少年は、眼鏡越しではない視線を寄越していた。
怜悧な顔立ちは美しく整っていて、服装が服装なら美少女と見紛うほどである。
モデル並の長身と明朗な声色で、今はもう殆どそんなことはないのだけれども。
どうした、ティエリア。
久しぶりに復活した彼独特のフルネーム呼びと厳しい口調にたじろぎつつ、ロックオンが答える。
「話があります。…ほんの、少し」
私のほうをちらりと見ながら言い淀んだ彼にロックオンは苦笑して、
白い手袋越しに私のむき出しの肩に触れた。
ちょっと、抜けるな。申し訳なさそうに囁かれた言葉にふるりと首を振り、
彼と離れた私が向かうのは可愛らしく着飾った淑女たちのところ。
「、おめでとう!」
明るくお祝いを言ってくれるクリス、
「んもう、きれいになっちゃって!!」
相変わらずセクシー路線のスメラギさん、
「…おめでとう。」
微笑みも自然になってきたフェルト。
三人は口々に、心からの賛辞とそして、からかいをくれた。
フェルトも、ね。
先ほど宙を舞ったブーケを抱えた少女は、気恥ずかしそうにはにかんだ。
「それにしても、どうなの?狙い撃ったのはどっちなのかしら」
指で拳銃を模したスメラギさんが、
向こうで話し込んでいるロックオンと私の間でその銃口を揺らめかせた。
「そんなの、決まってるじゃないですか!」
クリスティナは両手を組み合わせて、ロックオンに照準を定める。
それもそうね。スメラギさんも悪戯っぽく微笑んで、クリスに倣う。
ふと視線をこちらへ滑らせたロックオンが
自分を狙う二人のスナイパーにたじろぎ、軽く両手を挙げてみせた。
その様子に四人で笑い転げて、
その笑いが収まるころ、クリスが感慨深げに口を開く。
「先越されちゃったな、に。」
言葉とは裏腹に幸せそうなクリスには、もう将来の予約が入っている。
スメラギさんの薬指にもゴールドのリングが自然に嵌っていて、
それは晴天の太陽の光を受けてきらきらと輝いた。
「クリスは気付くのが遅かったじゃない。仕方ないわ。」
「そう、なんですけどね。
その点とロックオンはもうほんと、お互い一目ぼれっていうか…」
「いきなり二人の世界に入るんだもん、こっちがびっくりしちゃった。」
「だから私、あんな良い男をすぐ諦められたのよね。
まあ今となってはそれもこれも…運命、なんだろうなぁ。」
嬉しそうにクリスが笑い、つられて笑いの波がもう一度押し寄せてくる。
その後もいろいろと話に花を咲かせていると、
しばらくして話が終わったのか、ロックオンがこちらに向かってきた。
今度はお前だ、あと親指でティエリアを指し示して、
そしてすぐ酒が回ってきたスメラギさんに絡まれ始める。
(ちょっとロックオン、を泣かせたりしたら私が承知しないわよ!)
(み、ミススメラギ!冗談だろ?そんなことありえねぇよ!)
赤と白の薔薇が絡みついたアーチの下で、
ティエリアは近づいてくる私を見つめきっていた。
どうしたの、ティエリア。
たずねれば、真紅の瞳からぽろりと零れ落ちる透明な雫
困惑して、駆け寄る私が手を出す前に、ティエリアはぐい、と目元を拭い去った。
「…・ストラトス。」
凛とした声が呼ぶ名に、少しの違和感。
その正体が掴めないで目を丸くさせているうちに、
ティエリアはもう一度繰り返した。「・ストラトス!」
そこでようやく気付く、違和感の中身。
…名字。
今日から、明確に変わるモノ。
急いで返事をすると、ティエリアは口の端を吊り上げた。
「ぼさっとするな。
人間は結婚をゴールインと称するが、俺は愚かな表現だとしか思わない。
あなたたちは、これから始まるんだ。」
遠まわしで、けれど彼らしい祝福に、
ロックオンが言われたこともなんとなく想像がついて、私は微笑んだ。
「ありがとう、ティエリア。」
空を見上げると、晴れ晴れとした空。
雲ひとつない晴天が、私たちの始まりを祝福してくれていた。
vier, das ist Anfang.
(その4、これは始まりで)
MENU
| |
|