「うわぁ、すっごく美味しい!」

ガツガツと自分の分の昼食をパクつくナルトの隣で、一口だけ嚥下したが感嘆の声をあげた。
木彫りの食器の中には、スパイシーな香りのする鶏肉のスープ。
大き目の具材がごろごろしているそれは見た目にはそこまでおいしそうには見えなかったが、味は城のものなどとは全く比べ物にならなかった。
盛り付けてくれた中年の女性が嬉しそうにに作り方を教えている間、
テムジンは賞賛の言葉こそ発しなかったものの、テンポよくスプーンを運んでいた。
…もしかすると、彼と一緒に食事を取るのは始めてかもしれない。
レシピを聞き終えたは、ぼんやりと彼の食事している姿を見つめた。
ナルトのように食器の音も立てず、食べかすを頬につけていることもない。
両脇の二人が対照的過ぎて、思わず笑いがこみ上げる。

「ぁが?」

すくったものを口に入れようと大口を開けたナルトが、その状態のままストップした。 フェレットに引っかかれたような三本の傷の上に、スープで煮てある「ゴハン」が数粒くっついている。
スプーンを置いて苦笑しつつ自分の頬で位置を指し示してやると、ナルトは慌てたように親指で掬い取って口に入れ、それから照れ笑いをした。











食休み。
ボール遊びをしている子どもたちが歓声を上げ、大人たちは少しずつ移動の準備を始めていた。そして自然と、子ども達を見守る視線もまばらになる。

ふうわりと高く上がったボールが木の叉に挟まったのは、そんな時の事だった。

「(あ、危ない。)」

小さな子どもが木の高いところへよじ登り、ボールのもとへと向かっている。

「危ないよ、私が取るから、…降りておいで?」
「いいよ、ぼく、木登りは得意だから。それに、もう少しだしさ…。」
「でもなぁ…。」

はするすると登っていき、少年よりも少し下の枝から下を見た。 あの崖に比べればどうということはないが、打ち所が悪ければ危険な程の高さだ。
はらはらしながら見上げるを尻目に、少年はぐっと赤いボールへと向かって手を伸ばした。


ズッと少年の足が太い枝の表面を滑り、変声前の高い悲鳴を上げて落ちかけた。
は自分を木に繋ぎとめていた両手を離すと、落ちてきた少年の体を抱きとめ…否、抱きとめようとしたが、バランスが保てるはずも無く落下していった。
女性の叫び声、嫌な浮遊感。地面が近づいていくのを見るのが怖くて、
はぎゅうと目を瞑り、腕の中の少年をしっかり抱きしめて、襲い来る衝撃を耐えようとした。

走りよる音、苦痛の声、痛いには痛いが、予想より遥かに少ない衝撃。
瞼を開くと、そこにはテムジンの姿があった。





「なにやってんの、この子は!」

少年の母親であろう女性が叱り飛ばし、少年は腕の間から飛び出した。 反論するでもなく、必死に母親にしがみついている―…余程、怖かったのだろう。

「あの、怪我が無いか見てあげてください。踏み外したとき、変な方向に曲がっていましたから…」
「いえ、この子のせいで…本当に、なんとお礼を言ったらいいか…!」

母親はとその下に敷かれているテムジンを見比べ、
はぱっと頬を赤らめてテムジンの上から転がり落ちるように地面へと移動した。
やってしまった―…結局自分は、ただ彼の負荷になっているだけだ。
テムジンは無言でを一瞥すると、立ち上がろうと腕を突き…起き上がれずに、力を掛けた腕を恨めしそうに見つめた。

周りを囲んでいる人だかりから、サンダルを履いた足が半歩前へ進み出た。
テムジンが見上げると、そこには、先程ダチョウに運ばれていった少年の姿。

ナルトは視線を反らすと、テムジンに向かって手を差し出した。
は少しだけ目を見開き、それからやれやれ、と微笑んだ。

テムジンはナルトの手を借りることは無く、自ら立ち上がり、何事も無かったかのように去っていってしまったからだ。

「ナルトくん、…私が、借りても?」

ちょっとあつかましいかな、とも思ったが、
所在なさげに漂っているナルトの手を見兼ねて、である。

彼は素っ頓狂な表情をしたが、すぐに照れ笑いをして、勿論だってばよ、と快く了承してくれた。







「テムジーン!」

彼の姿を見つけ、獣車へと駆け寄ると、彼はくっと背筋を伸ばしてこちらを向く。

。大丈夫か?」
「おかげさまで。ごめんね、重かったでしょ…」

いいながらは獣車の上へ軽々と跳び上がった。

「あれくらい、どうってことない。」
「でもありがとう。テムジンが来てくれなかったら、きっと怪我してたよ…私も。」

そうして突然、彼が上半身に纏っていた鎧を外し始める。
テムジンは狼狽して、頬を赤らめながらその手を制す。

「な、、っ!」
「さっきので傷が開いちゃったんでしょ。出して。」

少年の反応の意味が分からないといった様子で、少女はてきぱきと少年の肌を露出させていった。
中途半端に塞がりかけ、ゲレルの光を淡く湛えている傷口から血が滲んでいる。
いつもならすぐ塞がってしまうような軽症なのにと眉を顰めつつも、少女は患部に手をかざした。
少女の行動の意図がようやく分かった少年は、決まりが悪そうに視線をあさっての方向へと向けている。

「これでよし。…石の効き目がなんだか弱いみたい。無理しないでね…。」
「あの子ども一人なら、大丈夫だったかもしれないが。」
「…それって嫌味?」
「さぁ、な。」

軽く開いた指の隙間から暖かな光が溢れる。
数秒宛がうと、はふぅとため息をついて、捲り上げたアンダーウェアを引き下ろした。傷口は塞がりきっているはずだ。テムジンの身体を再生するゲレルの反応が消えていたから。

「…借りは返した。」

唐突に口を開いたテムジンに視線を向け、は神妙に頷いた。






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