がうらめしそうに視線を送ると、テムジンは今度はじっと、
自分で拳を握ったり放したりするのをぼうっと見つめていた。

「…はどう思う。」

久しぶりに聞けた自分の名前が少し嬉しくはあったのだが、
はそれを出さずに体を彼の方へと向き直させる。

「発想は悪くないと思う…確かにナルトくんは強いし、…優しいし。」

最後の部分はなんとなく発言に照れがあったと自分ですら思う。
別に照れる必要はないのかもしれないが、『強くて優しい』というのはの好みのタイプでもあった。
もちろんこれはテムジンにも当てはまる―…ただし、生真面目という単語も足さなければならないが。

「そうか、ならいい。」

またすぐに、こちらも見ないで会話を終了させようとしたテムジンに、
ついにの青筋が一本音を立てた。

「あのねえテムジン、まだ怒ってるんでしょ。」
「……。」
「肯定ととらせてもらうけど。…私、あなたの言葉を借りて言うと、あなたに『固執』してる。」

テムジンの非難するような視線がを射抜いたが、は動揺もせずに続けた。

「…仕方ないでしょ?だって、私にとってのテムジンは、
 テムジンにとってのハイドさまと同じなんだから。」
「…おれが?買い被りすぎだ、おれは…」
テムジンは呟くように言った。

「だって、そうなんだもの。ハイドさまたちは優しいけど、私たちを養ってくれてるけど、でも…きっと、テムジンがいなきゃ、あんな痛いの耐えられない。」

の表情が苦悶に歪んで、テムジンも後味の悪そうな表情をした。
彼も一度、初めから終わりまで通して見たことがあるが、そのときのの悲鳴は聞くに堪えず、今でも思い出そうと思えば鮮明に思い出せる。









円形の部屋の中央に膝をついたが、光に包まれる。
一束一束、から発する光の帯が
部屋の端にぎっしりと並べてあるシリンダーに吸い込まれるたびに、
悲痛の叫び声が木霊する。

それでも、叫び声が聞こえているうちは良かったのだ。
しばらくするとからは叫び声も出なくなり、
ただただ、身を縮こまらせて耐えることしかできなくなってしまっていた。

シリンダーが全て光り輝き、液体のようにゆらゆらと揺れ始めると
終には脱力したようにばたりと前のめりに倒れる。
見ていられない、そんな表情で辛そうに顔を顰めていたハイドはが倒れるとテムジンが動くより先にに駆け寄り、両の腕でしっかりとかき抱いた。


呼吸もままならなくなっているぼんやりとした瞳のは、腕の中でぐったりと動かない。少し遅れてテムジンがの元へと来ると、ハイドは片眼鏡の下からも大粒の涙をこぼしていた。


『…嘆かわしいことです…こんな小さな少女にしか、出来ないなんて。』


は、はっ、はっ、と断続的な呼吸をする中で、微かに呟いた。


『わた…しの、わたし…に…しか、できっ…ない……から……』
、喋らなくても良いのですよ…』
『……れ…っくら…しか……できな………。…。』
『…?』


がすうと目を閉じ、テムジンがぐいと前のめりになって
を泣きそうな瞳で見つめると、ハイドはをテムジンに託した。


『…気を失っています…。部屋に連れて行ってあげて下さい…』


そういって目頭を抑えて後ろを向いてしまうハイドの姿と、真っ白な顔色をしたの姿に、
自分ももっと頑張らなければ。一刻も早く『石』を探し、理想郷を完成させ、
をこの役目から解放するのだ、と誰かに背を叩かれ叱咤されたような気がした。
その日からずっと、彼はそのときの決意を忘れることはなかった。












「…」

内心で葛藤するテムジンの黙り込んでいる姿だけを見て、
は諦めたようにゆるゆると首を振った。

「…分かった…もうしないから…謝るから……。だからもう、仲直りしてほしい。」

自分のしていることに間違いはないつもりだが、あなたと喧嘩をし続けるほど強情じゃない。
が暗にそう言っている様な気がして、テムジンは目線だけそちらへ動かした。
少女の瞳は少しだけ哀しみの色を帯びていたが、少年にはその真意は分からない。
ただ、そんなに自分と喧嘩しているのが嫌なのだとだけ思い、ふっと表情を和らげる。


「…しかたないやつだな。」


遠まわしに許しの言葉を与える。
それだけで、少女の表情はふわりと明るくなり、強張っていた唇がくすぐったそうに弧を描いた。
けれどそれも一瞬で、は少し眉根を寄せて、何か言いたそうに口を開き、
躊躇って閉じてから、今度は先程とは少し違う形で開き直した。


「…テムジンが説明しないのは、考えがあるんだと思っとくよ。」
「…別にそうじゃない。」
「じゃあ何で。」テムジンは言うと、もすぐに言い返す。
「ハイドさまから伝えるほうがいいと思ったからだ。」
「ただ行くだけじゃ着いて来てくれないよ。そこまでバカじゃないもの、ナルトは。」

「……ナルト。」テムジンはもごもごと言った。
「名前も知らないのに連れて行くつもりだった?」は腰に手をかけて、呆れたように見上げる。
「名前くらい…知っていた。あいつの仲間が騒いでいたからな。」


相変わらず何を考えているのか読めない表情を向け、
テムジンは少しだけ不機嫌さを込めた声色で言った。
そのくらいで怒らないでよ、とは内心呆れたが、
おそらく表情には出さないでいられただろう。


「…私、あの少し前にナルト達と知り合ってたから、もしかしたらもっと穏便に誘えたかもしれないのに。」
「無理を言わないでくれ、おれにとっては初対面だ。」
「…タイミングとかいろいろ、悪過ぎるんだよね…。」

がうんざりしたように左右に首を振ると、テムジンは目を瞑って一息つく。
爽やかな風が間を通り抜けて。
…なんだか興が削がれ、は踵を返した。

丁度そのとき、昼餉の支度が出来たから集まれというキャラバンの誰かの母親の声が聞こえ、はぴっと姿勢を伸ばして声の方向へと走っていった。









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なんとか仲直りできました。