翌日の朝、早く、キャラバンは移動を開始した。
少女達も勿論朝早くに起こされて、その移動の準備を手伝った。
天幕を下ろし、畳み。
巨大な、見るからに分厚い皮を身に纏った動物(スナサイ、というらしい)に括りつける。
大集団はその足取りに合わせるようにゆっくりと進んでいった。


楽しい夢を、と願ってまで見た夢はその頃にはおぼろげになってしまっていて、まだふわふわと綿菓子のように残る具体性のない甘さが少しだけ寂しい。


スナダチョウが一匹余っていたため、ナルトは乗り方を教えてもらってそれに乗って移動していた。
何も言わなかったテムジンと、興味はあるが少し怖くもあったは、
促されるままスナサイの引く獣車に乗り込むことになった。






こんなことは初めてだから本当に良く分からなかった。
テムジンが任務のとき失敗するのもそうだし、
まして崖から落ちて見ず知らずのキャラバンにお世話になるなんてことは。
…しかも、自分も一緒に。

お世辞にも快適とはいえない獣車に座って、
向かい側に座って何かを考え込んでいる様子のテムジンに視線を送る。
傷は昨晩で癒えたはずなのに、まだ帰ろうとする様子は見せない彼のことを。



生真面目な彼のことだからおそらく、このまま去るのはさすがに失礼だと感じているのだろう。
先のほうが少し弧を描いてしまっている髪を撫で付けながら、は思った。
とて恩を感じていないわけではなかったが、
テムジンとは違って少女には定時にすることがあった。


「お勤め」と呼ばれるそれは一日に一度行われるのだが、
専用の祭壇がないところではしてはいけない、
ハイドに、それでは逆に神への冒涜になると言われたことがあるからだった。

理想郷実現のためにそれしかできないにとってその行為は、
自分の存在を左右するほどの重大な出来事だった。

そんな少女の心境を知ってか知らずか、テムジンは朝から一言もと―それどころかキャラバンの誰に対しても―口をきかなかった。
不安な思いを打ち明けられずに、キャラバンは進んでいくし、日は高く上りつつあった。



沈んだ気分で膝を抱え、ぼんやりと揺られていると、
さっきまでテムジンのところで落ち着いていたフェレットがこちらへと駆けてきた。
昨日のときといい、本当に気の良くつくフェレットだ。
小動物だから感情に敏感なのだろうか。
それもどこか違うような気がしたが、他に理由も見つからずそれで妥協することにした。
ネルグイを撫でていると、気分が不思議と落ち着く。


小さく鳴いてじっとの表情を見つめるネルグイ。
見つめ返すにはネルグイにどこか違和感があるように感じた。
フェレットの紅い目自体は、自分達のものと違ってそう珍しくはない。
けれど、そういう自然に起きる赤い目は、体に色素が少なかったり、減らしたりするため起きるのだ。
だから冬のウサギは、白い毛並みに赤い目をしている。

…けれど、ネルグイは赤い目を持っているにもかかわらず、茶色を基調とした毛並みを持っていた。
どうしてだろうと考えては見たものの、どうしても答えは出ない。

突然変異か何かだろう、そう定義した少女の手からペレットを受け取るとネルグイはかりかりとそれを齧り始めた。








日が天の頂点に昇りきった頃、キャラバンは林の近くで休憩をとった。
木陰に座り込み、木に体を預ける。
時々そよそよと吹きぬける風と食欲をくすぐる香りとで、思わず眠りに落ちてしまいそうなくらいだ。

キャラバンの人々も女性は殆ど昼食つくりに追われていたが、男性の何人かは思い思いの場所で惰眠を貪っているのが目に入る。

けれど子どもたち(私達もまだ、子どもに入るけれど)はとても元気に遊んでいるし、女の子達はお裁縫を習っていたり、とても平和な光景だ、とは思った。




少女がふと目をやった先だ。
テムジンの乗った獣車の横に、スナダチョウ(大きい鳥だ。飛べないが足の力が強いらしい、と聞いた)に乗ったナルトが乗り付けていた。
聞き取れはしなかったが語気の荒いナルトの口調に息をつき、
ひょいと立ち上がって獣車の方へと向かう。

共通の知り合いなりに、なんとかできることもあるだろうと踏んでのことだった。



「こらぁ!無視すんなってばよ!」

喧嘩はしていないらしい。テムジンは彼には珍しくぼぉっとした表情でナルトを見上げている。


「おまえの妙な力は、なんだ?」

ナルトに対してやっと言葉を発するかと思えば、
それはナルトの質問の答えとは全く異なるものだった。
ナルトは思いがけない質問に一瞬きょとんとし、
それでも思い当たる節は見つけたようだった。

「力?…チャクラのことか?」

「チャクラ?」
聞き返してから、テムジンは近くまで来ていた少女に今日始めての視線を送った。
なんだか腑に落ちなかったが、はその視線に答えてやる。


「…違うよ。」
「そうか。」
「っておいこら!ちゃんまで一体何言い出すんだってばよ!」


困惑した表情のナルトに、はさらりと返した。


「だって違うんだもの。」

「何と何が…ああ!もうそれはいいから!…おまえら一体何者なんだってばよ!」


無理やり自分の質問に戻し、ナルトはいきり立つ。
いつの間にか自分も含まれてしまったことに、は苦笑した。
そしてテムジンは定型文かと思うような冷静で、流暢な言葉で返す。

「このけがれた世界に、理想郷を作る。おれたちはそのために働くものだ。」


少女もこくりと頷いたのを見て、ますます訳が分からない、といった表情をし、
少年にとっては聞きなれなかったのかその単語を復唱する。


「…リソウキョウ?なんだそれ?」
「天国…みたいなものね。」


少女は柔らかな笑みを浮かべて、ひとことで抽象的に表現した。


「おまえは面白い力をもっている。おれと一緒に来い。」
は?とがテムジンに視線を向けると、同じような表情でナルトも彼を見ているところだった。
ただ、ナルトの表情には明白な『呆れ』も含まれていたが。

「はあ?おまえってば、言ってることがわけわかんねーってばよ!」
「あのね、物事にはだいたい順序ってあるでしょ…」

「……考えておけ。」
「おい!」「ちょっと!」

とナルトの声が重なり、二人は一瞬はた、とお互いを見合ったが、
すぐにテムジンのほうへと向き直って抗議を始めた。
もっとも、テムジンは言うだけ言ってシカトの姿勢に入っているが。


「冗談じゃねぇってばよ!なんでオレがお前なんかについて行かなきゃいけねーんだ!!」

ナルトの声調子にすっかり圧され、黙り込んだは不貞腐れたように視線を反らした。
すぐそこのスナダチョウが、しきりに草の辺りをぱくりぱくりとやっている。
どうやらバッタか何かに気をとられているようだ。


「こっちは襲ってきた理由を聞いてるんだぞ!
 なんだったら、このままふんじばって木の葉の――うわっ!」

ナルトの話の途中だったが、スナダチョウは飛んで逃げた昆虫を追いかけてついと踵を返し、
たったかと走って追いかけていってしまった。
―勿論、背中のナルトも一緒に運ばれてしまっている。

今度はダチョウに抗議をし始めるナルトだったが、
人間の言葉が分かるはずもなく、(分かっていても聞き届けることはしなかっただろうが)
ナルトとダチョウは遠ざかっていってしまった。






降りればいいじゃん、口に出そうと思ったが、

そう思った頃にはナルトの姿は木の陰に隠れてしまっていた。



















NEXT

BACK

MENU










テムジンの言葉に、二人でびっくりです。