背に負った意識のない少女を見ると、彼らの担忍は胃の辺りを押さえながらすぐ保健室へ運ぶよう指示を出した。
また厄介ごとを連れ込んできた、とでも思われているのだろう。それでも乱太郎としんべヱの二人には、少女を放って置くことなど出来なかった。
誰か民間人に託すという手もないではなかったし、考えはしたが、彼らは結局自分達の目の届くところに置いておくことを選んだのだ。
それが何故かはわからない。一つだけの心当たりは、一瞬垣間見ただけの彼女の目付き。
その眼差しを、放って置いてはいけないような気がして。






煤や泥だらけの彼女の顔を拭い、着物を着せ替えてくれたのはもちろん保健委員のくのたまだった。
全ての作業が終わってから再度通された保健室には、大層美しい少女が一人眠り続けていた。
透き通るような肌に淡く色づいた唇、滑らかな黒の長髪。くノ一というのは女を武器にすることもあることもあるためか超一級の美人揃いだったが、彼女達と比べても遜色ないほどの美貌だった。

「すんごい美人さんだね・・・」

おしげちゃん一筋のしんべヱにそう言わせしめ、乱太郎も言葉を無くし黙って同意した。
喋らない美人はそりゃ綺麗だろ、と今はアルバイトに精を出している友人が見れば、一言付け足すかもしれないけれども。

「どうだ二人とも、彼女の様子は?」
「土井先生。」

部屋の中に半助が入ってくると、二人は左右に分かれて彼の分のスペースを作った。特等席から少女を眺めた彼は少女の呼吸を確かめ、脈を取る。

「まだ意識が戻らないんです。」
「致命傷はないらしいし、毒とかそういうんでもないらしいですけど」
「そうか…。」

安心したようにため息をついたと同時に、二人の頭に降って来たのは半助の容赦ない拳骨だった。

「いてててッ!」
「そろそろ来るかなぁって思ってたけど…」
「当たり前だ!!…彼女だから良かったものの、お前達は正体もわからずつれて来たんだろうが!」

激昂した彼の言葉に、忍たま二人は一様に首を傾げた。

「え?・・・先生、今なんて?」
「先生、この女の子のこと知ってるの?」

二人の言葉に半助が再度ため息をつき、事情を話そうと口を開きかけたその時、少女が身じろぎ、程なくしてぱちりと双眸を開いた。

「あ」
「目ェ覚めたんだ!」

少女はたおやかに上半身を起き上がらせると、上体を少しひねって乱太郎たち三人のほうへ体を向けた。憂いを帯びたようなその視線が三人を舐め、周囲をざっと窺ってからやっと、少女はその口を開いた。

「・・・どなたか存じませんが、危ないところを助けていただき、有難うございました。」

寝台の上で丁寧に三つ指をついた少女に、乱太郎としんべヱもつられるように会釈を返す。柔らかな動作に反して、顔を上げた少女の瞳には強い意思の光が宿る。

「わたくしは。イシタケ城が主、冠野宇栃さまの側室にございます。」

「へ」

「「お、オヒメサマぁ!!??」」

驚きに目を見開いた二人に、は逆に驚いてみせた。

「…ご存知ではなかったのですか?」

二人はぶんぶんと勢い良く横に首を振った。顔を見合わせ、まさか、だとかホントに、などという疑問の声を掛け合う。
「全く…お前らは…」
明らかに二人と同年代ではない男ー…半助がそう洩らすのを聞いて、は安堵したような、どこか寂しそうな笑顔を浮かべた。

「貴方はご存知なのですね。」
「はい。一度拝見したことがあります。」
「まぁ。・・・・・・ですが、・・・ごめんなさい。」

少女はうつむき、消沈した様子で懐を探り、古ぼけた巾着袋を取り出す。

「城は焼け、冠野さまも目の前でお亡くなりになられました。いまのわたくしに残っているものは、これだけにございます。」

紐を緩め、布団の上にそっと並べられたものはみっつ。
精巧なつくりの簪、装飾用と見て分かる小刀、それと、赤紐に通された6つの銅銭だった。

「わ、すごい…」
「けっこう良いものだよ、これ。」
「ええ、それを売れば多少のお金にはなりますから、これを御礼に「それで!」

少女の言葉にかぶせるように、半助は語気を荒げた。
びくりと体を震わせた三人は彼に視線を集める。

「・・・それで貴女は、これからどうするつもりなんです?」
「!」

は唇を噛み、視線を落とす。

「この品を売れば、生活の為の元金になるはず。それを渡してしまっては、困るんじゃないですか。」

「・・・だって・・・そのために助けさせたのでしょう?わたくしが、側室だから…」

「違うよ?」

きょとんとした声色に、少女は当惑した様子で再度顔を上げた。その言葉を発したのはくしゃくしゃの髪をした眼鏡の少年で、もう一人の少年はといえば彼もこくこくと頷いている。

「ぼくたち、お礼が欲しくて助けたんじゃないもの。」
「お姫様だとかも知らなかったしね。」
「じゃあ、どうして…」
「助けてっていってたからかなぁ?」

ふっくらとした笑顔でそういわれ、少女の瞳からは涙が一筋零れた。








BACK/MENU/NEXT

WEB拍手→