「…オレはどっちにも付かない。」
空ろな瞳をした彼は、そう言った。


「っ!?」
!」
リオンの声にならない声と、スタンの泣き出しそうな叫び声が交錯する。

「お前…っ!」
「ごめんリオン。…オレはどっちも、傷つけられない。」
少年は剣も抜かず、先ほどまでのように湿ぼったい階段に腰を下ろした。
さも、それは仲間とリオンの二者択一であるかのように。


「……相棒だと思っていた僕が、馬鹿みたいだな。」
嘲るような、憎悪するような、けれど笑みで。リオンはひゅっとシャルティエで風を切る。
『相棒』への迷いを断ち切り、彼は冷え冷えとした視線を仲間達に向けた。
その中にまだ、捨てきれない少しの何かが残っている、は思ったが、悲しげに眉をひそめただけだった。
「こうして僕は一人で仲間に立ち向かう、裏切り者だというわけだ!」
ぱしゃん、とリオンの靴が荒々しく海水を弾けさせる。それが合図だった。



―歯痒くて堪らない。
何かに夢中になればすぐ開いてしまう口だったはずが、ぎりぎりと歯を噛み締めているせいか、
一向に開かない。
ろくに悩みもせず、(悩む時間が少なすぎた、というのが本音だ)出した決断は揺るがなかった。
それしかなかった。
…本当に?
彼に一人でさせていいのか?
けど、


リオン、スタンさん、ルーティさん、フィリアさん、ウッドロウさん…
誰にも…剣を向けたくなかった。そして彼らの後ろに見える世界という大きなもの。
前まではたとえ、他の全てを天秤にかけても、彼に傾く自信はあった。
けれど…彼は今誰のためでもない、マリアンのために戦っているんだ。
それが悔しくて悔しくて、天秤は今釣り合ってしまって、揺れない。

どんどん傷ついてゆくリオンとは裏腹に、スタンはこまめに回復昌術がかけられる。
スタンの大きな体に阻まれ、小さく細い剣士は的にすることも叶わない。
昌術を使うにも、洞窟が崩れては一巻の終わり。
そんな理由で、フィリアとウッドロウはただただ、その悲しい戦いを見つめることしか出来なかった。

リオンの服、肩辺りが切り破られ、鮮血が散った。
ちっと舌打ちをし、シャルティエがスタンの横腹を裂く。
痛みからか。力の限りスタンがディムロスを振り下ろした。
「!」
いくら傷つこうとも、目をつぶっていてすら避けられるような剣筋。
単純だが、重い太刀筋だった。
…リオンの胸から腰にかけて、青い服に亀裂が走り赤く染まってゆく。

「がは…っ…!」

「リオン…!」
スタンは驚いたように目を見張る。威嚇のつもりだったウッドロウの射が彼の肩へ突き刺さる。
「…スタン…」
そう言うとふらふらとよろめき、地に膝をつく。いつでも余裕だった…客員剣士が。
スタンが声をかけようとした瞬間、洞窟は、鳴動した。
持たされていた爆破スイッチを待たずして、だれかがスイッチを入れたのだ。


「っ…!!」
「海水が流れ込んでくるぞ!」
「早く逃げないと…!」
「でも、リオンさんが…!」

階段の所で、慌てふためく彼ら。
はすっと立ち上がると、スタン達を睨み付けて、叫んだ。
「何のために、リオンに刃を向けたんだ!世界を取ったからだろう!!」
泣き叫ばんばかりだったフィリアが、ふっと静まる。
「世界を救えよ馬鹿野郎!!!」
ばちんと音がして、四人が消える。
ふっと一瞬意識が遠くなったが、持ち直し、は喀血を繰り返すリオンの方に向かった。

洞窟に反響して、物凄い音がどんどん近づいてくる。
「…なんだ…。……いま…ごろ………」
睨む気力も、憎悪すらする気力もないのか、リオンは顔だけ上げた。
唇を真っ赤に濡らし、かつてないほど荒々しい呼吸音と、喉のひゅうひゅうと鳴る音。
医者に問う必要もないほど確実に、リオンは死に向かっていた。
は、回復昌術は使えなかった。
「…オレは…誰の敵でもない。」
「……」
侮蔑するような視線を送り、リオンはもう一度、地を血で染めた。
「…僕は…お前なんかと…心中、したくない…」
「リオンを一人で死なせたりしない。」
「…馬鹿、逃げ…って……だ…」
「いいんだ、リオン。どっちが勝ったにしろオレは…」

座り込み、リオンの体に腕をまわす。
矢傷がないほうの方に首を寄せ、は自らの服で、体で止血するかのように密着させた。
「……エミリオ、私、きっと本当は、エミリオがいればそれでよかったんだ…。」
かたかたと震えるリオンの指先がの服の裾を握り締め、ぐっと引いた。
「…望んでなくても、私はエミリオと一緒に行くよ…」
揺らめく視線が長身の剣士を捉えようとするのも、深紅に染まった唇が真の名を呼ぼうとするのも、
瞳から雫が落ちるのも何もかも、





非常な濁流は、押し流していった。









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恋をしている少女ならではの葛藤。
少女はどちらもはっきりと選べませんでした。
そして死を選びます。