真っ暗だ。


何にも見えない。でもまだチカラは減っていってる。

まだ目覚められないって、何かが囁いてる。

目覚めてはいけないって。


…わかってるよ。

私だって、もう少し…


…寂しがる時間くらいは、欲しいもの。








まるで双子の彫像のように、固く強く抱き合ったまま眠り続ける、サクラと
サクラの手をぎゅっと握って離さないシャオラン。

白の魔術師は、整った顔を崩しながら言った。

「こりゃ、拭くに拭けないねぇ?」

こんなにびしょぬれなのに、と、口元には微かな笑みを湛えて。





「眠っちゃったの?王様。」
心配そうな、風の囁くような声が聞こえた。
水に濡れた体を拭きもせず、背に複雑な紋様を刻み込んだ細身の男は、服を着始めた。
髪からはまだ水が滴っているのに、服は、髪から滴り落ちる雫をその水玉模様としただけだった。

「うん。これしか方法がなかったからなぁ…」

苦悶の表情を浮かべ、男…白の魔術師は答える。
憂いの表情に気づいているのかいないのか、顔の横に白の獣耳を生やした少女はまた、問った。
「これからどうするの?ファイ。」

ファイ、と呼ばれた魔術師は、視線を少女のほうに向けると、水槽の縁に寄り掛かって、高い高い天井を仰いだ。

「もう、この国にはいられないなぁ。…や、この世界には、か。」
とぼけた様な表情で、遠くを見る。きっと…今いるこの世界を見ている。
世界?と不思議そうに単語だけ繰り返す少女に、視線を少女に戻したファイは微笑んだ。
「この次元には、ってこと。」
「…良く分からない」
少女は少々困ったように、だがはっきりと返した。
ファイはへにゃ、と微笑って、片手で少女を軽く抱き寄せる。
「いいんだよ――チィは、それで。」
その言葉に少女は嬉しそうに笑み、飼い主に甘える猫のように体を摺り寄せた。


「…おっと――あんまり時間がないなぁ。」

そういって立ち上がろうとするファイに先駆け、少女が空を舞った。
長い髪の毛を、二つの翼のように拡げて。
立ち上がったファイはふちにファーの付いたコートのフードを被り、襟元を手繰り寄せた。
何の時間が?とでも言うように、少女は短く啼いた。
「行かなきゃならないんだよ。」
「どこに?」
「遠くに。できるだけ遠くに。」
ファイは先ほど自分が上がってきた水槽を顧み、目元だけ、哀しみの表情を浮かべた。
「アシュラ王がいない世界へ。」
不死鳥の印を施してある透明な石のようなものの中に、黒髪の男は眠り続ける。
風の力で杖を引き寄せ、ファイは少女に言う。
「チィに頼みたいことがあるんだ――」
「なぁに?」
余分なことは一切言わず、少女はいつも最低限を問い返した。
「もしも、王が目覚めたら教えて欲しいんだ。だから、ちょっと姿を変えてもらっていいかなぁ」
「うん、いいよ。チィはファイがつくったんだから。」

杖の先端の宝石が光り少女を霧散させる。
否、少女は姿を変え、水槽を覆う塵となり、沈黙した。

「せめて、眠りの中では良い夢を。」

身勝手だろうか、こんなことを思うのは。
自嘲気味に、視線を落とした。


自分を中心に、常人には読み取れない文字を、杖の後端で空中に描く。
ぐるり、一周して魔法陣が完成し、魔術師は一呼吸置くようにさてと、と呟いた。
「行きますか――…魔女の元へ。」

魔法陣が魔術師の体を包み込む。
体ひとつ、呑み込んだにも関わらず魔法陣だったものはどんどん吸い込まれるように消えていき、
魔術師はそっと、目を閉じた。
巨大な回廊にはついに、何の気配も無くした。












黒の忍者は舌打ちをして、黒髪の少女を見つめた。


「俺は強くなりてぇんだよ。もっと、誰よりも強く。そのための戦いだ。誰が死のうが、生きようが、構ってられっか。」
そう言った俺に、知世姫はいつもの、含みのある微笑を浮かべた。
「確かに。この国、日本国には貴方より強いものはいません。」
だろうな。さっきの刺客も数だけだった。数いても弱かったが。
滴り落ちる返り血にか、他の巫女達がざわめいた。
もしかしたら俺の態度にも、多少問題はあるのかもしれないが。
――思考、中断。知世姫のあの顔は…何かしでかす顔だ。
「仕方ありませんわね。」
思った通り。
知世姫は胸の前で、素早く印を組みだした
「あ?なんだなんだ!?」
組まれた手の前に、文字が浮かぶ。
それに向けて姫は、一気に手を、突き出す。
ブワっと、チカラが俺に向かって飛び出した。
「どわっ!?」
「昔からよく言います。悪い子には旅をさせよ。」
「いわねぇよ!!」
絡みつくチカラに、どんどん引きずり込まれていく。
…事も無げに姫が言う。
「これから貴方を異界に飛ばします。」
「飛ばすな―――!」
「貴方はきっとたくさんの人に出会うでしょう。そこで、本当の意味での強さを知るでしょう。
 そのために。別れは辛いことですが私は貴方を見送りましょう。」
…涙ながらに言われても。
「いや、おめぇが送ってんだよ!無理矢理!!」
「ああ、そうですわ。もうひとつ、貴方に術をかけておきましょう。」
突っ込む俺を無視し、姫は印をまた印を組み始める。
今度は小さく、額に打ち込まれるチカラ。
「なんだこりゃ!」
「『呪』です。貴方がこれ以上無駄な殺生をせぬように。
…貴方が一人、殺める度に、貴方の強さは減っていきますので、気を付けて下さいませね。」
「ふざけんな!知世!!」
「姫様を呼び捨てにー!」
姫の傍らに控える蘇摩が慌てる。
「…それと、もうひとつ。」
穏やかな微笑みを崩さないところが…余計性質が悪い…。
「向こうにいる間は、わたくしのかわりに『黒きツバサ』を守ること。」
「なんじゃそりゃ!?」
「行けば分かります。では、縁があったらまた会えるでしょう。元気でお過ごしくださいね、黒鋼。」
「てッ、てめー!覚えてろよ――!!」




強引に送られた場所。姫から言付かった任。
この、黒い翼を持った少女を守ること―…


黒鋼がまだ起きない少女達から視線を外すと、ファイは一組の男女に何かを説明しているようだった。







冷たいだけだった暗闇に、ほんの少し、暖かさが加わった。
薄っすらと、自分の手の平が見えるようになった。
場所すらわからない自分が何だか急に、歯がゆく感じた。
私には、何の力もない。
体術も小狼に比べたら粗末なものだし、魔法なんて使えるわけがないし、剣だって使えない。
自分の身しか守れなくて、どうして、何が、救えるというのだろう。
たしか、今いるであろう『この国』では、心の強さが力になる。
私にも巧断は憑くはず。

私に、みんなを救えるチカラを――!!


一筋の光が、暗闇に差し込んできた。
空間が割れ、光が、洩れだすように眩く、眩く輝き―――
光り輝く、ユニコーンのように角が生え、ペガサスのような翼を持った白い馬が、現れた。

『我は 光を司るもの達の主
 我に相応しいものを 永い間 待ち続けていた
 力が欲しいか 黒きツバサを持つものよ。』
光を纏ったペガサスは語りかける。私の、心の奥底に。
「…欲しい。戦う力じゃない、みんなを救える、チカラが…欲しい!」
『…認めよう。汝の心の強さ。我が力、受け取るがいい』

ペガサスが体に飛び込む。
視界に光が満ちて、どこからか舞い落ちる漆黒の羽根が、妙に黒く映った。





「あ、気が付いたみたいだよー?黒髪のほうのコ。」
ファイさんらしき声に薄っすらと目を開けると、目の前にドアップで……めきょってなったモコナがいた。
「うわっ!?」
びっくりして後ずさろうとすると、有難いことに小狼がしっかり抱きしめていてくれて、それは叶わなかった。
「…ここ……」
とりあえず話の進み具合を確認しようとして、きょろきょろと辺りを見回す。
小狼はとっくに起きてしまっていたのか、既に私に向かって、安心したような微笑をしていた。
「…よかった。だけでも…起きてくれて。」
その言葉にハッとして、横を見ると、桜ちゃんはまだ眠り込んでいた。
体はそう冷たくないようだったから、羽根はもうひとつ、戻した後なのだろう。
本当は二枚目だけれど。なんだかちょっとだけ安心して、泣き笑いみたいな表情になった。
ほんの少しだけ柔らかくなっている桜ちゃんの表情をもう一度よく見てから、私はゆっくり起き上がった。
いつまでも、初対面の人に挨拶をしないわけにはいかない。
懐かしい畳の上に座り込んで、交互に二人を…ファイさんと、黒鋼さんを見やる。
「…あの。どちら様ですか。」
何度も見た事だけはある二人だけれど、今は状況が違う。
目の前に立つ、夢でも幻でもない二人の姿を前にすると、さすがに緊張した。

「はじめましてー。ちゃんだよね?」
初めに、ファイさんが少し前に出て、軽く礼をして挨拶をしてくれた。
いきなり『ちゃん』と呼ばれたことに少し驚いて、でもとりあえず、なんとか挨拶は返す。
「はじめまして…」
私の戸惑いを汲み取ったのか、ファイさんは補足してくれる。
「小狼くんから聞いたんだ、名前。オレはファイ。こっちの白いのがモコナ。…で、向こうの黒いのが」
「黒鋼だっ!」
「まだファイなにも言ってないのにー」
ファイさんが紹介しようとした途端、黒鋼が割り込んで、それを黒鋼の頭の上のモコナが突っ込んだ。
テンポの良い会話に、自然に笑みが湧き出てくる。
「ファイさんに、モコナに、黒鋼さん。…宜しくお願いします!」
「おい、何で俺がこんな小動物の後なんだ!!」
「教えた順だと思うよー。くろぽーん」
「あ゛ぁ!止めろ!!」

カチャ、と部屋にあったドアが開き、黒髪を短く刈った男性と長めに切りそろえた女性が手にいろいろと持って現れた。

「よぅ!目ぇ覚めたか!」
突然現れた人たちに、小狼は桜ちゃんを抱きしめる腕の力を強める。
じっと見つめ、警戒する小狼とは対照的に、私は何もせず、ぼけっと入ってきた二人を眺めた。
「んな警戒せんでええって。侑子さんとこから来たんやろ。」
人の良さそうな顔をした男性は軽い足取りで、私達の方に近寄る。
小狼が軽く眉を顰め、彼にとっては聞いたことのない名前を繰り返す。
「ゆうこさん?」
「あの魔女の姉ちゃんのことや。次元の魔女とか、極東の魔女とか色々呼ばれとるな。」
サッ、サッと畳の擦れる音がして、掛け布団とタオルを持った女性は、控えめに微笑んで、どうぞ、と小狼にそれらを渡した。
小狼はお礼を言って受け取ると、やっと桜ちゃんを布団に横たえ、…止まった。
桜ちゃんの体は濡れたままで、このまま掛け布団をかければ確実に湿ってしまう。
けれど、思い人の体を―…そう簡単に拭けるわけがなくて。
私は貸して、といって小狼からタオルを奪うと、優しめに桜ちゃんの体の前面を拭き始めた。

背後では空汰さんたちの自己紹介、そして黒鋼いじりが始まっている。
お茶を勧めてくれた嵐さんに、桜ちゃんの体を一通り拭き終えた私は聞く。

「あの、お風呂借りてもいいですか…?」
「どうぞ。下の突き当たりにありますので。」
「ありがとうございます。…その間に…」
「…分かっています。それと、後で服をお持ちしますね。」
「ありがとうございます!」

私がぴょこんと立つと、小狼が少し驚いて、私のほうを向いた。
「どこ行くんだ?。」
そのへんは人間の性というか、反射的にファイさんや黒鋼さんもこちらを向いたので、少し気恥ずかしくなって頬が少し染まった感じがする。
「えっとね、服がびしょびしょで気持ち悪いから、お風呂もらおうかと。」
「そだねー、ちょっと肌寒い感じだし、女の子だから風邪引いちゃうもんね。」
「そっか。じゃあ…気をつけて。」
まだよく知らない場所だからなのか、小狼は心配そうに私を見上げる。
「何に気をつけるって言うのー小狼、あそこの黒い人?」
「だいじょぶだよー黒りんは僕達で見張っておくしー」
「だからさっきからなんで俺なんだ!!」
黒鋼さんの怒り方は、どこか優しい。
自然に浮かんでしまった笑みに、なぜか黒鋼さんは目を反らして押し黙ってしまった。
「じゃあ、行って来ますね。」
扉を閉じると、私は教えてもらった場所に向かう。

「ほんじゃ、この国についての説明を始めんで!」
カラカラとどこからかホワイトボードを取り出し、空汰は意気揚々と言った。
「え?ちゃんは待たないんですかー?」
「あの子は、いいの。もう知っているから。」
「……」
ファイは納得出来なさそうに、視線を下側に落とす。
黒鋼もじぃっと真剣に嵐を見つめ、小狼は素直に口に出した。
「何で…だけ知ってるんですか?オレ、この国には見覚えがありませんけど…」
「……」
嵐は静かに微笑んで、誤魔化した。

「ほれほれ、そんなに見たらハニーに惚れてまうやろ。ちゅーもーく、こっちや、こっち!」
空汰が注意をひきつけようと手を振り、その片手に填められたものに、三人の関心を奪わせた。






「お風呂ごちそうさまでした、嵐さん。」


途中、嵐さんが持ってきてくれたであろう寝巻きに着替え、ほかほかと湯気をそこら中に振りまきながら私は部屋に戻った。
嵐さんはぺこ、と頭を軽く下げて、にこりと笑う。…やっぱり綺麗だ。
丁度空汰さんの話も終わったようで、ファイさん達がぞろぞろと出てきた。
部屋に入ろうとした私だけど、先に四人を部屋から出すことにし、廊下で立ち止まる。
「あーちゃんーどう?スッキリした?」
「はい、とっても!服もぐしょぐしょで気持ち悪くて…」
ちゃんストップ。」
恥ずかしさからヤケになり、一気にまくし立てる私の口元で手を振り、ファイさんは私の言葉をせきとめさせた。
ちゃんは小狼君と一緒に旅するんでしょー?」
「え、はい、そのつもりですけど…」
「じゃあ敬語は止めないとね。オレ達仲間なんだし。」
…その割には小狼はずっと、敬語だった気がするけど。
ファイさんはふっと笑って、少しだけマジメな表情になる。
まるでレモンみたいにしぼられる、私の胸の中。
「気使わせたくないんだよ、みたいな可愛い子に。」
「!」
ぷるぷるって軽く心が震えて、あの後一気に顔が、じゃない、体中が熱くなる。
すぐ赤くなる私の頬はきっと今、りんごより赤い。

「やっぱかわいー♪黒にゃんもそう思うでしょー?」
「な、なんで俺なんだ!」
「ノリだよー。空汰さんも言ってたじゃーん。」
「俺は知らん!」
黒鋼さんはぷいっと他所を向いて、というか空汰さんに指示された部屋のほうへ歩き始めてしまった。
「あ、そうそう、もう夜中の12時なんだって。オレらは部屋違うから。」
「え、あ、じゃあ、おやすみなさい!」
「うん、おやすみー」

ファイさんは肩越しに私を見つつ、ひらひらと片手を振りながら部屋に入っていった。
「お、ハニーのネグリジェ似合うやん!さすがわいのハニー…!」
語尾にハートマークを付けながら、ファイさん達を案内してきた空汰さんが言った。
片手にまた人形をつけて、わきわきと人形の手を動かしている。
「…、やったっけ。大変やろうけど、……頑張れよ。」
「はい、……有難う、御座います。」
嵐さんといい、空汰さんといい。私のことを知っているかのような口ぶりだ。
なにか、きっと侑子さんにでも聞いているのだろうか。
「ま、今夜はもう遅いし、早く寝ぇや。明日に響くで。じゃ、ほなな。」
「おやすみなさい。…ありがとうございます……」

扉を開けると、布団で眠り続ける桜ちゃんと、その手を握る小狼の姿があった。
切なそうな表情で桜ちゃんを見つめる小狼の姿は、本当に、悲しい、としか形容できない。
私が入ってくる気配に小狼は顔を上げ、少し笑んだ。
「おかえり、。」
「ただいま。」
がしょがしょと髪をタオルで乱雑に拭いていると、小狼は苦笑して、私の手からタオルを取った。
「拭くよ。痛むだろ?」
「だって乾燥してるし、砂ぼこりでどうせ髪ぼさぼさじゃーん」
「ここは湿度も高いし、砂埃も舞ってないと思うよ。」
「そうだった。」
優しく優しく、小狼は私の髪を拭く。
それが心地よくて、私はつい、小狼に甘えてしまうのだ。
二つ目の、けれど唯一の、家族…だからかもしれない。
私の本当の家族は、もう私を忘れてしまったろうから。

小狼はもう、唯一の、義弟であり、家族なのだと。
考えると、自然と妙な息苦しさが胸を這い登ってくる。

ふと、手が止まった。
前と後ろが大きく開いた服。嵐さんの服にしては可愛いデザインのもの。
肩甲骨のところに確かに感じる違和感と、それに触れる小狼の手の感触。
くすぐったい、と思うと、それはひらひらと左右に動き、手の感触が慌てて離れていった。
どうやらその違和感は、自由に動かせるようだ。手のように、足のように。

「あ、ごめん…」
「ううん、だいじょぶ。」
「…に、羽根は…生えてなかったよな?」
「うん。それ…やっぱり、羽根?」
「ああ。……真っ黒な羽根が生えてる。」
ここから、といって、小狼はその羽の付け根の辺りを、軽く指でつつく。
くすぐったいなぁと身を捩じらせると、今度はさっきより少し余裕を持って、手は離れた。

のツバサは…散らなかったんだな。」
「そう…みたいだね。どうせなら、私のツバサが散ればよかったのに。」

思いもかけず、言葉が口から抜け出してきた。
長く喋るのは得意なほうではないのに、淀みなく続く言の葉。

「そうしたら、こんなに大変なことにもならずに、済んだだろうに
 さくら姫はいろいろな人に大切にされてて、唯一の王位継承者で、
 死なせるわけにはいかないけど。
 でも私なら、」
「それは違うよ、。」

どこか虚空に呟く様な私の声は、きっぱりと、でもどこか優しい小狼の声に遮られた。
はっとしたように小狼を見ると、小狼は、柔和に微笑んでいた。

もさくらも、同じ。おれにとってかけがえのない、大切なひとだ。
 魔女が求めたのは、たまたま、さくらのおれに関する記憶だっただけで、
 もしかしたら、のおれに関する記憶だったかもしれない。
 …両方、取られていたかもしれない。」

小狼は視線をさくらちゃんの方に滑らせ、切なげにその、眠り続ける穏やかな顔を見つめた。

「たとえ、がおれのことを忘れてしまったとしても。
 のツバサが散っても。
 同じように、死なせたくないと思う。」
「小狼…」
「力もないのに、ちょっと欲張りすぎかもしれないな。でも…そう思ってる。」
「ありがと、小狼。」

なんだかちょっと恥ずかしくて、照れ隠しに苦笑する。
小狼も顔を上げると、穏やかに微笑んだ。

「…さ、寝よう寝よう!明日は町に出て、羽根を探すんだしねっ!」
さらっと言って、布団に潜り込むと、私は深い眠りに落ちた。




小狼の表情が、はっとしたものに変わっていたことなど、気づかずに。













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