「ホントにこーんな間抜けな仕掛けで捕まるのかぁ?」 大木の陰に隠れきれない金の髪がもそもそと動いた。 「静かにしてなさいよ!バカ!」 それを見かねてひそひそと返すのは、桃色の髪の少女。 だが、ちょこまかと動き回る茶色い毛並みの小動物から少女の視線は決して反れない。 単純な仕掛けだった。罠の方向に追い込んだところで、小動物にパニックを起こさせ、それの本能的に好みそうな場所をひとつ作っておく。 狭い隙間だ。至って原始的なつっかい棒を使った罠で、小動物が入り込んだときに少女が紐を引けば、捕獲は成功する。 IQが200以上もあるシカマルの立てた作戦だったが、それにはひとつだけ穴があった。 …いやIQがいくらあったとしても、占いしか何かでない限り知りえないだろう。 突然その場に、しかも一番大切なところに第三者が舞い降りてくる、なんてことは。 「…嘘だろー…」 小動物よりも先に見つけたのはいいものの、今飛び出して行っては策もなにもない。 シカマルは「どうすんのよ!」と口パクを送ってくるサクラと、罠に手を伸ばそうとする誰かをチラリと見て、一つため息をついて印を結んだ。 降り立った小さな丘の上には、なんだか可愛らしいフェレットのぬいぐるみがあった。 こんなものを見たのは久しぶりだ。こんな妙な場所にあるのは変だとは思ったが、 きっと近くの村の子どもが遊んでいる途中に落としたりしたのだろう。 お世辞にもかわいいとはいえないその人形に手を伸ばしかけた、その時だった。 「…う…っ」 ぴしり、と筋肉が活動を停止したかのようだった。 指はそれ以上動かない。足も顔も、何も。 突然自分の意思とは関係なく、座り込む自分の体。 姿勢を低く低く。させられる。 「……誰…何、コレ…。」 それは少女にとって、不快感しか引き起こさせなかった。 感情がたちまち高まり、一度仕舞ったはずの光の翼が、苛つきを含んだ少女の声と共に、発現する。 自ら光を発する翼を自認した瞬間、幾つもの重い枷が一気に外れたかのように訪れる、身体の自由。 「いつもと…違う…。」 未だ多少感情は高ぶっていたが、少女はそう呟くとほう、とため息をついた。 前を向きなおした矢先に、少女の胸元に柔らかくふさふさしたものが飛び込んだ。 「うわっ!?」 猛スピードで飛び込んできたそれをなんとか抱え込むと、その小動物はさっきのぬいぐるみに…似てないともいえない、フェレットだということがわかった。 片手で抱えなおし、空いたほうの手を差し伸べようとすると、フェレットは腕を伝って首の後ろをくるりとまわって肩で止まり、嬉しそうに少女の頬に頬を擦り付ける。 「あーっ!!おい、そこのオマエ!!俺たちの手柄を横取りすんなってばよ!!」 正面から突然聞こえてきた怒号にはっと顔を上げると、 森から飛び出した同い年くらいの金髪の少年が憤慨した様子で抗議をしていた。 何事かと混乱しているうちに、桃色の髪の少女がふっと現れて少年に、 叩きつけるような拳骨を喰らわせる。 「少しは忍びなさいよバカナルト!!!」 少年が蹲るその拳骨の威力に、ふと先程喰らってきたテムジンの裏拳を思い出し、 は苦笑して丘を下る。 正面の森は、よく見るとなにかの罠だらけ。 よくもまぁこんなに仕掛けをしたものだ、と呆れ半分、興味半分で思っていると、 森のまた別の箇所から、今度は黒髪を高い位置で纏めた少年がダルそうに歩いてきた。 「このフェレットは、…あなたたちの?」 すっかり大人しくなったフェレットを撫でながら、は三人に問いかける。 「いや、違う。だが、それを探して届けるように依頼を受けている者だ。」 「そうなんだ。じゃあ、迷いフェレットか…。」 人に飼われていたのなら、この態度も納得がいく。 といっても元々フェレットはペットとして品種改良されたものだから、野生のフェレットなどいるはずはないのだが。 どこか懐かしいそのフェレットを手放せずにいると、金髪の少年がたったかと走ってきた。 両手でフェレットを捕まえなおし、少年のほうへ差し出す。 「優しいね。はい、返す。」 「お、おう。」 金髪の少年―確かナルト、と呼ばれていた―が、フェレットに触るか触らないか、の時だった。 「うぎゃあああ!!」 フェレットは一気に毛を逆立てると、少年の顔を二度、三度と引っ掻き、の腕の中へと駆け戻っていった。 あまりのことに、は目を真ん丸くして少し後退る。 「こんのヤローっ!もう怒ったってばよ!!」 今はの肩のところで少年を威嚇しているフェレットと、それに対して敵意を剥き出しにしている少年に挟まれて、もうはどうしてよいのやら分からなくなった。 「止めなさいってば!もう!」桃色の髪の少女は少年の服の後ろ襟をぐいっと引っ張り、 「しゃーねぇな、あんたも一緒に届けるしかないらしい」もう一人の少年は、不機嫌の表情を崩さずに―おそらくこれが元の顔なのだろうが―に事情を説明し始めるのだった。 しばらく、道の両側に崖が続いた。 は、城にあまりいない年の近い三人との話を楽しんでいた。 いろんなことを話した気がする。その中では、自分のいた大陸とこの周辺の国々との違いを知った。 文化や制度、いろいろなものが違うらしい。中でもの興味を引いたのは、自分達の国ほどこの周辺の国々は、目だった戦争をしていないということだった。 それじゃあハイド様の思想はここでは通用しないかもしれない。なのに何故、わざわざここを目指したのだろう…きっとこのことに気付いていないに違いない。はそう思ったが、特に進言するつもりはなかった。他に何か目的があるのなら関係がないし、実のところ、ハイドに好意という好意は持ち合わせていなかったのだ。 平和は願っている。むしろ切望している。けれど、ハイドはどこか、自分とは相容れない何かがあった。 確かに優しくて、穏やかで、丁寧。テムジンは盲目的に仕えているけれど、はそこまで、ハイドを信じきれていなかった。自分の中のなにかが警告を発している…。 …だが、たちには他にもう、行くところが無いのだった。 前方を歩いていたナルトは既に、大きな吊橋にさしかかっていた。 「ここを渡って―そう距離はねぇな。」 「よっしゃあ!着いたってばよ!」 シカマルの言葉にナルトは駆け出し、周囲をろくに注意しないで吊橋を駆けた。 「おい、ちょっと待てナルト!」シカマルが声をかける。 「危ないよ!『この橋注」 が近くの立て札を読み上げている最中に、ばきん、という音と共にナルトの足元にある吊橋の板が抜けた。 「わ、わ、わ!」 恐る恐る下を覗いてみると、崖の下は遥か遠く、目も眩むような高さである。 慎重に歩いていったがナルトに手を貸していると、シカマルとサクラが真剣な顔をして遠くを見つめながら、何事か喋っていた。 「ん、しょ。サンキュ、。…あれ、どうかしたんだってばよ?」 なんとか這い上がってきたナルトが、二人に声をかける。 「それがね……」 続く言葉に、は少しだけ、顔を顰めた。 「こっからは偵察パターンに切り替えだ。オレたちは西側の森に回るから、ナルトとサクラは逆側から回ってくれ。」 無線機から二人の了解の声が聞こえると、シカマルは、少し遅れてはいるもののしっかり後を着いて来ているに視線をやった。 いや、遅れているのではない。遅れざるを得なかったのだ。は一センチもズレずにシカマルと同じ幹を蹴り、同じ枝を掴んで着いて来ている。 とても、一般人の芸当には見えない。この村人だと言った少女の言葉も果たして、信頼して良いものかどうか。 シカマルは少女の行動を見張りながらも、周囲の状況を見極める。 しばらくすると、村を見下ろせる位置にある高台に出た。木の幹から様子を見ると、シカマルは眉間の皺をより深くした。 「うっ、こりゃあ…」 村は完全に破壊されていた。原型もわからぬほどに、まさに、壊滅、といった状態だった。 下唇を噛んで哀しそうな瞳でそれを見つめる少女は気にはなったが、とりあえずナルト達に報告を優先させるべきだ。 そう判断したシカマルは無線機に手をやったが、何か言う暇も無く、サクラのものであろう悲鳴が無線機越しに耳を劈く。 「おい、どうした!」 無線機を手に包み込むようにして、シカマルがまくし立てる。 も心配そうにシカマルに注目していた。ああ、やはり嘘だった、とシカマルは心の隅で思う。 ぶつん、という音がして、その数瞬後にナルトの名を呼ぶサクラの声が聞こえてくる。 「どうした、サクラ!ナルトの通信が―」 『こっちに変な連中が―』 「わかった、すぐそっちへ向かう!」 シカマルは枝を地を蹴ろうとして、今気付いたかのように少女のほうを振り返る。 「ここにいろ、危なくなったら―逃げろ!」 それだけ言うと、疾風のようにシカマルは去っていってしまった。 はそれを見えなくなるまで見送ると、ぽつり、と呟いた。 「私といたほうが―…危なくないのに。」 は肩の上のフェレットを抱きかかえようとしたが、 その意に反してフェレットは腕をすり抜け、地面へと降り立って走り去る。 「どこ行くの!?…もう!」 全速力で走るフェレットを悠々と追いかけ、は鬱蒼とした森の中へと駆け戻っていった。 NEXT BACK MENU |