フェレットは、森の開けた場所までを誘導していった。 立ち止まったフェレットを息も切らしていないがしっかりと腕に抱え込む。 そこには土ぼこりがもうもうと立ち込めていて、自然と目を細めた。 消え行く土ぼこりの中から現れたのは、見慣れた白銀の鎧。 は咄嗟に、草葉の影に身を潜めた。 風が土煙を掃いて、視界がすっきりすると、鎧兵―テムジンの正面に、ナルトの姿があった。 遠すぎて二人の表情など見えもしない。 少女はただ―…無理な話だろうが、二人の知り合いが険悪な関係でないことを祈った。 ――が、テムジンが右手を突き出し、親指だけを下に向け、降伏を促す仕草を向けたことで、の願いは一瞬にして塵と消えた。 「テメエが親玉か!!」 ナルトが叫びながら、テムジンに向かって走りこむ。 そしてもう一人、また一人とナルトが……ナルトが? いつのまにかナルトは数を増やし、ざっと見て十人はいるようだった。 がその光景に混乱している間に、目でやっと追えるような凄まじい攻防が繰り返されていた。 次々に繰り出されるナルトの攻撃を、紙一重でテムジンは避けていく。思わずは拍手しようとしたが、生憎両腕は柔らかいフェレットで塞がれていた。 ナルトたちの攻撃が一巡し、もう一度テムジンに襲い掛かる。 テムジンは今度は避けるだけでなく、的確にナルト達に攻撃を加えていった。 一撃食らわせるだけでナルトたちはどんどん煙になって消えていき、(はやはり混乱した)最後に向かってきたナルトに肘を叩き込むと、攻撃してきたナルトは、全て消えてしまった。 「…ナルト全部消えちゃった…。」 少女が呆気に取られるまもなく、テムジンがふっと体を反らせ、一瞬前テムジンの体があったところを地面から飛び出てきたナルトの拳が打ち上げる。 「…なんでもありだなぁ…ナルトってすごーい…。」 テムジンが跳躍し、無防備になっていたナルトの胴を回し蹴りする。 「ま、テムジンの方がすごいんだけどね。」 ナルトの体は吹っ飛ばされ、途中にあった木々の枝をも巻き込んで大きな岩を砕いた。 テムジンは最初ナルトを飛ばした方向すら見なかったが、ナルトが脇腹を抱えて起きるとそちらに視線を送った。ナルトがテムジンへ何本もの短剣のようなものを打ち込みながら、テムジンの方へ向かっていく。 刃は全て彼を傷つけることは無く、テムジンの盾に跳ね返される。 テムジンの上空にナルトが迫る。テムジンは後ろ腰から短めの剣を引き抜いて、ナルトの短剣を受け止めた。 剣戟の音がかなり短い間隔で響いている。は苦々しい表情を浮かべて、ただフェレットをぎゅっと胸に抱いていた。 「きゃあああーっ!!」 突然のサクラの声にはっと顔を上げると、いつの間にか離れたところにいたナルトがサクラの名を呼び、声のする方に木の幹を蹴った。サクラは向こうで鎧兵に手を掴まれ、宙吊りにされている。 テムジンは跳躍し、ナルトに切りかかろうとする。 ナルトが短剣でそれを受け止めると、テムジンはよりサクラと鎧兵に近いところへ着地した。 「くそーっ、人質を取るなんてヒキョーだぞ!」 テムジンは余裕そうに、鼻を鳴らして笑った。 「とっととその手を「駄目!避けて!!」 ナルトとの声が被り、テムジンの体のあったところを鎧兵の鉄球が抉った。 テムジンはひらりと数メートル先に着地しながら、を一瞥し、視線をまた鎧兵に返す。 不自然に木の影から伸びた陰が、鎧兵に繋がっていた。鎧兵と全く同じポーズで、木の上にシカマルの姿がある。 不思議な術だ。はそう思おうとしたが、その数瞬ですらには与えられなかった。 シカマルと全く同じ動きで、走りこんできた鎧兵がの方へと棍棒を振り上げていた。 テムジンを庇うような発言をしたことで、敵だと見なされたらしい。 は避けもせず、右手でフェレットを抱えて左手を突き出しただけだった。 「……!」 サクラが息を呑む。 の手のほんの手前で鉄球はさらりと砂のようになり、細かな光をあげて土の上へと零れ落ちていった。 仄かに光を発する左掌を胸元に充て、にっこりと微笑むと、鎧兵とシカマルを繋ぐ細く長い影に向かって閃光を浴びせかけた。 「螺旋丸!!」 「魔導招雷撃!!」 違う方向からも凄まじい閃光が迸っている。影が寸断されるが早いか、はそちらの方に意識を向けた。 種類の違う二つの光が、ぶつかり合っている。テムジンとナルトだった。 テムジンと対等の力を持っているなんて、は吃驚したが、次の瞬間フェレットを離し、手を組んで祈った。 テムジンの閃光がより、激しくなる。均衡していた力が、一気に崩壊した。 瞬間、目も眩むほどの閃光に、何も見えなくなる。 視覚と聴覚が他の感覚を圧倒する。二人が戦っていたせり出した崖が耐え切れなくなったのか、根元から折れるのと同じような感覚で地すべりを起こした。 「 !!!」 声の限り叫ぼうと、自分の耳にすら入ってこない。 地面にしがみついて突風を対処すると、バランスも満足に取れないまま崖のほうに駆け寄る。 「いやぁあああっ!!!」 今度は自らの悲痛な叫びが聞こえた。 崖とともに、ナルトと共に、テムジンはなす術も無く落下していく。 ギリギリまで乗り出して、本当に崖は深く、下の様子すら見えないことにより愕然とした。 大粒の涙が零れたとき、背後の空気が動いた。 「おい、、とか言ったか。これはどういうことだ。」 「……シカマル、サクラ…。」 非難がましい目を向けるサクラに、予測済みだったというような視線を送るシカマル。 は崖を一瞥すると、もう一度二人に向き直った。 「私、あなたたちはすごく好きだけど、でも、」 言いつつ後退する。パラパラと石の欠片が崖へと吸い込まれていった。 「テムジンの敵なら、私の敵だから。」 ふっと落ち込むの姿に、サクラが悲鳴を上げかける。 光の翼を広げたは崖の間に吹く強風にあっと言う間に流されていき、すぐに見えなくなった。 シカマルが舌打ちし、ふと気付いた鳴動に眉根を寄せる。 サクラもそれに気付くと、二人は揺れの方向へと駆けていった。 * は崖の間の突風にあおられて、思いのほか、風下のほうまで飛ばされていった。 深い崖も段々底が見えるようになってきて、そこに流れている急流に思わず顔を顰める。 「流されて…なければいいな…」 確かに崖は高かったが、即死の心配はしていなかった。叫んだのは殆ど、生理的なものだ。 体さえ回収できれば、石の力でなんとかなる。なんとかしてみせる。 けれど意識が戻る前に肉食の動物に食べられてしまったり、川に遠くまで流されていってしまったら…そう思うと、思いは急いた。 安全に着地できる高さまで降りたところで、発動を止めると、飛び降りるが早いか少女は川の上流…つまり風上に向かって歩き始めた。巨大な動物や鳥の足跡と轍が続く。 妙に整然としている跡からして―恐らく殆どは野生のものではないだろう。 砂地に足を取られ、思うように急げない。自分にいらいらする。 されど、少女は手がかりを見つけた時から全速力で走っていたのだ。先程の森の中でのスピードとは段違いの遅さだったが、かかる負担は同じ。…テムジンたちが落ちたと思われる崖下に辿り着いたときはさすがに体力も限界だった。 ずっと前に商隊のようなものが移動している。その移動速度は遅く、追いつくのは容易だと思われたが、酷使した体にとってはそう簡単なことではないらしい。 先導してくれていたフェレットが声を上げ、を促す。 不思議とその声を聞くと、力がみなぎってくる気がした。 あともう少し、もう少し、そう思っているうちに集団は開けた場所に差し掛かり、ほどなくして限界を迎えたは、その場にぱたりと倒れた。 NEXT BACK MENU |