それから私達は、藤隆さん…「お父さん」の子供として、考古学の研究に各地を回った。
伝えきれないほどたくさんの体験をした。
色んな国があった。
そしてお父さんがあるとき、立ち寄った国……それが、玖楼国だった。

文献を漁るお父さんの帰りを待って、私達は小さな家でごはんを作っていた。
昔、小狼は滅多に笑わなかった。
でも、本当に珍しい彼の笑い顔を見るのが、お父さんと私との密かな楽しみだったから構わないと、
そう考えていた。
この頃は、私の前ではよく笑うようになった
そう気づいたときには嬉しくて嬉しくて、思わず小狼に抱きついてしまったっけ。
この世界での私の設定は、小狼より少し上の年齢、らしい。
本当のおやこのように戯れる小狼達を見ていると、少し寂しくなった。
小狼のように割り切れず、お父さんの娘になりきれていない私が。
あれ…でも、
……私の本当の両親って、誰だったっけ……。

、こっちはOKだけど…」
「……」
?」

小狼がフライパンをもって、心配そうに私の顔を覗き込んだ。口元の端が少し下がっている。
「あ、ごめん、考え事してた。」
「なんだ。」
ひとを安心させるような、でも心配は抜けきらないような、小狼はそんな微笑をする。
「おれにも共有できることだったら、力になるよ。」
「ありがとう、でもいいの。もう何とかなったから。」
私も笑顔で小狼に返す。
「良かった。…それにしても…父さん、遅いな。」
「興味がある文献が見つかったのかも。」
「それなら良いんだけど…」
「お父さんなら大丈夫だよ。ご飯食べるころには帰ってくるって。」
小狼はそれに笑顔でこくりと頷いて、料理の続きを始めた。

ここは玖楼国…さくら姫のいるところだ…。
料理をしながらも、考え事は留まることを知らなかった。
何度も何度も考えた。私にできる、最善の方法を。
でも私の、幼さに慣れてしまった思考では何も思いつかない。
『貴女のしたいようにし、生きたいように生きなさい。それが答え、それが正解なのだから。』
次元の魔女…侑子さんの言葉を信じて、できる事を、したいことを、してみようと思う。

「ただいま、二人とも。」
そう結論に辿り着いたときに、今ではもう聞きなれた「お父さん」の優しい声が、扉のほうからした。
私と小狼は食事の仕度もそのままに駆け寄り、おかえりなさい、と挨拶をする。
まだ火を使わせてもらえない私達は、下ごしらえを済ませると、テーブルに着いてお父さんの持ってきた文献を読んだ。
埋もれた遺跡…のこと。ツバサのようなその形状はやはり、「ツバサ」で見たあの遺跡だった。
隣では小狼が齧りつく様にそれらを読み漁っている…この世界に来て、考古学に興味を持った私も、それらを楽しむ。
そうしているうちにお父さんが料理に火を通してくれて、美味しそうな香りがドーム状の小屋いっぱいに広がった。
「さぁ、いただきましょうか。」お父さんの声で私達は、文献をテーブルの端に寄せる。

「次はこの遺跡のことを調べるんですか?」
「そのつもり…かな。明日王様に謁見しようと思ってるんだ。二人も連れてね。」
「ホント!?じゃあ、王様に会えるんですか?」
「多分ね。王様には…二人と年の近い王子と姫もいるようだし。」
「王子様たちには会える?」
「会えるかもしれないね。」
微笑むお父さんに、私はやったぁ、と両手を上げた。
「トウヤ」と「サクラ」に、やっと会える!
…でもその七年後には、始まってしまうんだ。
ツバサの…物語が…。






翌日、私達はお父さんに連れられて、王様に謁見しに行った。
少し難しそうな話が続いた後、階段近くで和やかにおしゃべりをしていると。
「お父様!!」
可愛らしい声がして、ちいさな少女が王に駆け寄った。
「サクラ姫。」
にこ、と王は微笑み、その小さな姫は少し不安げに王の長いローブをつかんだ。
見知らぬ人間が近くに三人もいたからだろう。
「…ごめんなさい、お客様?」
おどおど、といった様子でサクラ姫は大人二人を交互に見やる。
静かに沈黙する王に代わって、お父さんがサクラ姫に視線を合わせるように前に乗り出した。
「こんにちは、お姫様。」
こく、と頷き、サクラ姫はこんにちは、と返したようだった。
お父さんは思いついたように私達に視線を向け、すっと手のひらを上にし、軽く腕を横にのばした。
「…紹介させて下さいね。僕の息子の小狼と、娘のです。」
旅の初めのころ習ったとおり、私達は会釈をする。
サクラ姫はいとおしそうに、私達を見つめる。
「王殿下、今日は有難うございました。」
「ええ、ではまた明日。」
別れて、思うのは。
この記憶も、サクラ姫にとっては、あと七年しか続かないということだった。


それから…七年。
もちろん、小狼の回想にあったいろんな出来事は過ぎ去った。
…強引に私を巻き込んだ、そんな形で。
今は私の誕生日も、四月一日になっている。

私はそんな中、一人のマンガの登場人物に恋をした。
トウヤ。今の玖楼国の王様だ。
きっと報われない恋だと分かっていても、少しだけ。
私を愛してくれている優しいトウヤに甘えることにしたんだ。




そして、ある夜遂に。

私は、始まりの夢を見た。








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七年もあれば、恋だってします。
けれどひどいようでも、彼はその場しのぎにしかならないのです。