ユメを見た翌日、私は遺跡の発掘調査隊の人たちと一緒に、王宮へ向かった。
もちろん、私は大した報告はしない。
後ろのほうにいて、じっと…話が終わるのを待つだけ。

「―――以上です。」
「…わかった。下がっていいぞ。」
「はい。」

靴の音や、衣擦れの音がして、調査隊の人たちが帰っていく。
そして一人だけ残る、黒いマントを纏った、私。
靴の音が遠ざかりきると、私はフードを取り去り、トウヤの元へ、飛び込んだ。
「トーヤっ!!」
「うぉっ!?」
トウヤは私ごと、玉座のふわふわのソファーらしきものに倒れこむ。
「会いたかったー…っ…」
ぎゅうと桃矢を抱きしめる。桃矢は、俺を絞め殺す気か?と言って苦笑した。
私の背中に手を回すのも忘れなかったけれど。
「…サクラはまたあの小僧の所か?」
「うん、王宮から飛び出してくるのを見かけたよ。」
「……そうか。」
少し眉をひそめる桃矢。私は桃矢の上からどくと、桃矢の隣に座る。
「心配しなくても、鐘が鳴ったら帰ってくるよ。桃矢にバレちゃうー、って。」
「バレてないと思うところがあいつの阿呆なところだな。」
「かわいいじゃない。でしょ?雪兎さん。」
私は桃矢と反対の方向にいる、銀髪の青年の方を見やる。
彼はいつも通りの柔和な笑みを浮かべていた。
「そうですね。」
「お前らはサクラに甘すぎるんだ!」
「だって可愛いんですもん。」
「そうですよ。」

雪兎さんの返事の後を見計らったかのように、夕刻を告げる鐘が鳴る。
「あちゃ。もうこんな時間?」
「…夕飯、食ってくか?」
「ううん、いい。小狼が家で待ってるもの。」
「サクラももシャオランシャオラン…」
「はいそこー、ヤキモチ妬かない〜!」
「この俺がお前なんぞにヤキモチを妬くとでも思うのか?」
桃矢は不敵な笑みで私を見る。久しぶりに見たこの笑顔に、頬が高潮するのが自分でも分かる。
でも私は悲しげな表情を作って、偉そうに彼に言うのだ。
「あら、妬いてくれないの?」
「当然。」
「何があっても?」
「まぁな。」
「じゃあ…」
私は立ち上がり、とととっ、と雪兎さんの方に近づく。
「ちゅーしまーすっ!」
「ゆきーッ!!!」
「はいはい。まったく、素直じゃないんだから。」
雪兎さんは軽々と私の両脇に手を入れて持ち上げ、桃矢の方に戻す。
桃矢はふーっと長いため息をついて、嬉しそうに笑う私の方を見た。
そして、視線の端に何かを見つけると、不機嫌そうにそちらを見やった。
「バレバレなんだよ、サ・ク・ラ!!」

柱の影が一瞬飛び上がり、観念してそろそろと出てきた。
困ったように笑った、サクラ姫が。
「あう…た…ただいま、桃矢兄様…」
「また、あの発掘小僧の所か。」
「小僧じゃないもん、小狼だもん!!」
あきれた様に桃矢が言う。それに反応して、サクラ姫が可愛らしく怒り出した。
既に見慣れた光景に、苦笑しか出ない。
「あんなガキ、小僧で十分だ。」
まあ、あんまりな言い方だ、とは心の中だけで言うだけにして、私は成り行きを見守ることにした。
「ガキじゃないもん!小狼、さんと二人で暮らしててお仕事も頑張っててえらいんだもん!」
「えらかろーがガキはガキだ!」
「ちがうもん!」
ギリギリまで顔を近づけて、二人は睨み合う。
くすくすと微笑んで、私と雪兎さんは同時に言った。
「その辺りになさったらいかがですか?王、姫。」
「その辺りにしたら?桃矢。」
「あっ、さん!」
ずっと桃矢の隣にいた私に今気づいたかのように、サクラちゃんは驚いた。
いや、実際兄妹喧嘩で周りが見えなかったのだろう。

「に…兄様だってさんと会ってるじゃないーっ…」
はガキじゃないからな。俺と同い年くらいだ。」
「小狼だってガキじゃ……雪兎さんっ!」
会話が元に戻った。
マンガにあまり違わないだろう展開に、私は内心胸を撫で下ろす。
微笑みつつ、三人の会話を聞く。…そろそろ、お別れの時だろうから。
心の中に、頭の中に、たくさん詰め込んでおこうと思って。

憤慨したサクラちゃんがパタパタと通り過ぎ、一言二言会話すると、桃矢は私を招きよせた。

「…正直、腹立つんだよ、あのガキ。」
あぁ、このシーンか。…なら、私を招き寄せる意味はあまりない。
「本当に妹姫が可愛くて仕方ないんだね、桃矢は。」
「一応、あれでも玖楼国、たったひとりの姫君。王位第一継承者だ。
まあ、普通に考えたら一般人とお付き合いってのは考えられないだろうな。」
胸がつくんと痛む。
もちろん、常識的に考えるとそうだ。
でもその考えは…私達にもぴったり、当てはまる。

「けど。」
桃矢が珍しく優しい笑みを浮かべて、私の方を見た。
「運命のひと、なんだろ。あれも。」
ごめんなさい、桃矢。
私達のそれはきっと…違う…。
罪悪感に苛まれているうちに、また会話が終わってしまったらしい。
もう遅いから帰れと桃矢に背を叩かれた。
明日になれば、もう――…
悲しげに見上げ、精一杯桃矢を抱きしめる。
…」
「桃矢…私……」
明日きっと二人と行くの、そう言おうとしたけれど、口が思ったように動かない。
干渉の限界…根本は曲げられなかった。
今ここで、遺跡にサクラ姫を近づけないように言えば。
私達、ずっと一緒にいられる―――?
心の奥で、侑子さんが言った気がした。
いいえ、それは無理よ。と。

私が何も言えず桃矢から離れると、桃矢はぽんぽんと軽く私の頭を叩いた。
「明日も発掘だろ?早く休め。」
「うん…じゃあね、桃矢。」
笑顔を繕って、帰ろうとすると、桃矢が不意に私の腕を掴んだ。
驚き振り返る、その刹那、柔らかな感触が唇に触れ、少しだけ顔を赤くした桃矢の顔が遠ざかっていく。
「…元気出せよ。お前の取柄はそれだけなんだからな。」
「…うん。」
今度こそ心からの笑顔で、私は桃矢に別れを告げた。
桃矢は私が見えなくなるまで、ずっと、見守ってくれていた。



「ただいま〜…小狼〜?」
「あ、。遅かったな。」
もう自然ね笑顔を浮かべ、小狼は振り返った。
美味しそうな炒飯の匂いがする…小狼の得意料理の一つだ。
「えへへ…御免ね、ご飯の支度させちゃって。」
外套をこの国でのハンガーらしきものにかけ、小狼に駆け寄る。
「いいよ、いつもはがしてくれてることだし。」
手際よく調理していく小狼の後姿を見ながら、また私は考え込む。
こんなに幸せなのに、小狼も桃矢もサクラちゃんも、ついでに私も…こんなに…
それでも物語は始まるしかないの?
なんだか理不尽に思えて、私はギリ、と歯を噛み締めた。
明日の昼まで。もういくらも無かった。











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